「マンデラの名もなき看守」
南アフリカ共和国初の黒人大統領"ネルソン・マンデラ"20余年の収監の間、専属看守となった男の実話。 なかなか味わいのあるヒューマンドラマです。原題は「GOODBYE BAFANA」。意味は、作品を最後まで観ると解ります。
その生い立ちから、コーサ語(南アの黒人が話す言葉)が理解できることで、政治犯マンデラ一派の言動を監視するための専属看守となったグレゴリー(ジョセフ・ファインズ)は、それまでのうだつの上がらない暮らしから出世への足がかりを得たと思い、家族と共に移り住んだロベン島の刑務所で、使命感に燃え、収監者達の企てを見抜き、手柄を重ねて行きます。 しかし、マンデラと接することで、彼の人間性、思想に次第に傾倒していき、自身と家族の立場と仕事、マンデラ(デニス・ヘイスバート)への共鳴との板挟みに苦しむことになります。
実話が元になっているので、ネルソン・マンデラがその後どのような道を歩んだか、悪名高きアパルトヘイト政策がどうなったかは周知の事ですが、本人の伝記ではなく、相反する思想を持った平凡な人間が感化され、変化していく様を描くことで、間接的に彼の偉大さを語るという手法が秀逸だと思いました。
ストーリー中、グレゴリーが閲覧禁止文書として保管されている「自由憲章」を盗み出すシーンや、胸ポケットに忍ばせているシーンなどはちょっとしたサスペンス仕立てで、面白いアクセントになっています。 また、奇しくも、囚人と看守が共に息子を失うという悲劇で結びつくのですが、どちらも交通事故死という直接原因の裏に何かあるようなニュアンスが漂うあたりに同国の影の部分がちらついて、薄寒くなってしまいました。
主な登場人物、マンデラ、グレゴリー、その妻役の3人が、見事な演技で作品の味わいとリアリティを深めています。 オススメです。
<オマケ>
80年代半ば、英米のポップスターがアフリカの飢餓救済チャリティーで楽曲を発表していた頃、「SUNCITY」という同じようなレコードも世に出ました。 日本では前者ほど大きな話題にはなりませんでしたが、こちらは南アのアパルトヘイト政策に反対するミュージシャン達の共同製作作品でした。以下、YouTubeから、そのビデオ・クリップです。
この映画をきっかけに、アパルトヘイトのことを少し調べ直してみましたが、その終焉には、東西冷戦終結による国際情勢の変化が多分にあったらしく、単に人道的な必然だけでは無いようで、寂しい思いがしますが、冷たい現実とはそんなものかもしれません。 少なくとも、これから同じような差別が復活することだけは無いよう願うばかりです。
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