「ワールド・オブ・ライズ」
◆ Body of Lies が原題。 中東を舞台にした対テロ情報戦がテーマの、9.11以降のアメリカにとって最大の政治的、軍事的脅威を背景にしたサスペンス調のドラマです。作品冒頭のクレジットに書かれたように、ドキュメンタリーとフィクションの中間に位置するような仕上がりになっています。
冷戦終結後 、その存在感が薄れていると言われてきたCIAが、新たな驚異「イスラム原理主義過激組織」の登場により、皮肉にもその活躍の場が再びクローズアップされ、このような作品が多く生まれることになっているわけですね。
ス トーリーの大筋展開に、特に目新しさは感じません。 かつてのスパイ映画や、最近の中東もの対イスラム過激派をテーマにした作品をご覧になっている方な ら、どこかで見たことある展開だなと感じられるでしょう。
しかし、現地のエージェントが、敏腕ぶりを発揮し敵との情報戦に挑み、やがて陥る危機一髪の状況 を、米本国の指揮官と第三国ヨルダン情報局のトップが入り乱れて結末へと進んで行く過程は、とてもスリリングで楽しめました。 リドリー・スコット監督の 手腕なのでしょう、そのリアルさが抜群で、今現在、中東のどこかで起きている状況を疑似体験しているような気分にさせられました。 ホフマンが、ハイテク を駆使し冷徹な作戦を仕掛けながら、その過剰とも見える自信が、正反対の作戦を遂行するヨルダンのハニによって見事に覆される設定は、唯我独尊をひた走っ てきた現代アメリカの状況をイメージして作られたのかも知れません。
さて、作品広告のキャッチコピーにツッコミをひとつ。インターネットを筆頭に情報源と価値観が多様化する中、最後まで二元的な物言いを続けた前米国大統領じゃあるまいし、「アメリカの敵は世界の敵」のようなステレオタイプのコピーはアナクロ過ぎて、作品のリアリズムが泣きます。 キリスト教文化が染みこんだ西欧文明だけが救うべき世界ではありません。 世界中がイスラムと敵対している訳ではないぞ・・・と。
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