報道の最前線で取り上げられることは少なくなりましたが、今年に入って最も大きなニュースのひとつが、4月に発生し、今も余震が続く熊本地震でしょう。5年前の、東日本大震災は勿論、毎年のように各地で発生している大きな地震災害は、日本という国土に生きる私たちには、いつか我が身に降りかかるかも知れないという危機感を喚起するに十分です。命が助かったとしても、何十年もかけて積み上げてきた人生の基盤を、一瞬で奪い去られてしまう喪失感は、察して余りあります。もし、明日、自分自身の身に降りかかったとしたらと考えるだけで、身震いしてしまいます。
(産総研という機関が公表している。活断層地図)
若くしてマイホームを購入し、ローンの残債が多額のまま、大地震が起きて家を失ってしまったら、多分そのひとの人生設計は、大きく変わってしまうでしょう。日本の住宅ローンは、ほぼ100%リコースローンですので、家を失っても債務は残ります。住宅ローンを完済していたとしても、定年などで仕事を無くしている高齢者の場合には、個人資産や年金収入で、再度家を購入するという選択は、余生を鑑みた場合、相当の資産家でなければ合理的ではありませんので、国や自治体の援助に頼るしかなくなるでしょう。
プレート活動により起きる、東日本大震災のような地震。今回の、活断層のずれによって起きる地震。どちらにしても、日本という地震多発国に住んでいる以上、絶対安全な場所は無いと認識するしかありませんので、持ち家のひと全員が加入する、生活基盤再建共済のような公的制度を検討すべきでないかとも思います。
さて、天災のように避けることができないことに加え、人為的に起こされそうな、日本の国としてのリスクもあります。
先月、総理大臣の会見で、消費増税が再び延期されることが発表されました。安倍政権の誕生以来推し進めてきた経済成長政策は順調だが、様々な要因により、まだ目標とするところまで届いていない。増税によって、景気を冷やさないようにという説明だったと思います。マスコミの報じるアンケート結果によると、国民の3/4くらいが増税延期に賛成しているとのことですから、コンセンサスを得てもいます。
1975年から2015年までの一般会計の税収と歳出
国債残高の推移
一方、上に張った2つのグラフのような現実もあります。平成に入ってから20年頃まで、一般会計の税収は減り続け、歳出は右肩上がりです。その差を埋めるためには、借金に頼るしか無く、その推移が、下のグラフで表されているという訳です。27年度末現在、国債残高807兆円、地方を合算するとし1,035兆円という額です。(国民一人あたり約1000万円。世帯平均2.5人とすると、一家で2500万円ですね)この巨額債務を抱える国の財政が、将来まで安泰と考えるには無理がありそうです。団塊世代が全員後期高齢者となる、2025年頃には、社会保障費の負担が今よりずっと大きくなるのが解っています。来年予定されていた消費増税が、その問題への処方箋だったはずですので、解決が先送りされ、将来不安が増したと言われても仕方ないでしょう。(最も、消費増税延期は、野党第一党も表明していましたので、日本の政治は、未来の問題解決より、今生きる世代の懐事情を優先しているのは同じですが。) もしかしたら、消費増税でまかなえなくなる社会保障費を、保険料をじわじわ上げて補おうという策略が進行するかもしれません。
このまま、財政再建に手を付けないと、2020年以降に国家財政は破綻すると言われています。これは、私の勝手な悲観的予想ではなく、財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会が公表した資料「我が国の財政に関する長期推計(改訂版)に書かれていることです。
国の財政が危機的であるという事実を前に抱く「合理的不安」は、当然、個人レベルに於いては、自己防衛への動機になるでしょうから、今の消費より、将来への蓄えという行動を取る人が多くなっても不思議ではありません。(普通の大人ならそうするでしょう) 結果として、GDPの6割を締めると言われる個人消費を拡大させる要因になるとは思えませんから、経済の好循環は簡単には起きないのではないでしょうか。
今回政治が選択した、消費増税と財政再建の先延ばし。その先にどのような未来があるのかは解りませんが、かつて高度成長期~バブル期に抱いたような、「明日はきっと今日より豊かになる」という期待が大きくなるとは、私には思えないのです。