なんちゃって映画感想文 Feed

2007年12月13日 (木)

今年最後の・・「ツォツィ」「パラダイス・ナウ」

 年末は、だんだん忙しくなって来るので、今年最後と思い2本続けて鑑賞してまいりました。どちらも、以前にロードショー公開されたものの再上映です。1本目は「ツォツィ」。《アパルトヘイト後も続く南アフリカの過酷な現状と、未来への希望を見つめ、第78回アカデミー賞外国語映画賞を受賞した作品》との解説があります。 2本目は「パラダイス・ナウ」 《第78回アカデミー賞外国語映画賞ノミネートの他各国映画賞を多数受賞》とのこと。 映画賞受賞作が自分の好みと一致するかというと、必ずしもそうばかりではないのですが、一応期待は高まります。


Tsotsi はじめに「ツォツィ」への感想文から・・。 シンプルなストーリーで、特にひねりもないので、南アの情景描写と、主人公の生き様への共感を得られるかが、本作を楽しめるる条件かも知れません。 最も貧しく危険だと評されるヨハネスブルグのスラムに暮らす不良主人公の冷酷な日常が、ある日を境に一変し、次第に人間性に目覚めてゆくというのがメインのテーマです。
 まずはネガティヴな感想から・・。残念ながら、決定的にストーリー(脚本)のまずさが目についてしまった部分があります。それは、主人公が、裕福な女から強奪した高級車の後部座席に、赤ん坊を発見し、自分の住処に津連れて帰る場面ですが、それまでの冷酷非道な不良少年が、何故そのような行動に思い至ったかという必然性に説得力がなく、その後に描かれる、赤ん坊との暮らしぶりなどがイマイチウソっぽく見えてしまうのです。 劇中もっともエポックとなる場面だけに、とてももったいないと思ってしまいました。 一方、南アの現在を描く部分には、結構ショックを受けました。 地下鉄構内の横断幕に大書きされたAIDSに対する警告文、そしてその病で死んだであろう主人公の母親、空き地の土管で暮らすストリートチルドレン等々。 また、主人公の他者を射すくめるような眼差しと、その奥に潜む悲しみの光。 そして、その目にやがて宿る暖かさの描写などにも見るべきものはあると思いました。 
 主人公がエンディングで流す涙に共感し、自分も泣ける方はシアワセかも知れませんが、私にそこまでの感動は、残念ながらありませんでした。


Paradisenow
さて、もう1本「パラダイス、ナウ」。こちらは、長く自分の心にとどまるであろう作品になりました。 イスラエル占領下パレスチナの真実の姿を知るには貴重な作品です。

 まず、冒頭から全体を覆うイメージの象徴的な場面で始まります。 美貌のパレスチナ人女性スーハとイスラエル兵との間で無言で進む数分間のやり取りは、もしや何かが起きるのではと思わせるような緊張感に満ち、両者の立場をとてもよく表しています。 そして、自爆攻撃志願者の主人公サイードとハーレドは、ヨルダン川西岸のイスラエルによる占領地に住む、パレスチナの若者です。彼らには未来への展望も、希望も夢もなく日々を送っていますが、狂信的な振る舞いは見られません。 ある日、サイードとスーハが出会い、シンパシーをお互いに感じるのですが、その直後サイードとハーレドへ、自爆テロ攻撃への命令が下ります、それも、翌日!!  活動家のグループと接触した二人は、テルアビブでの自爆攻撃に向け準備を進めてゆくことになります。

 物語はひたすら淡々と進みます。 攻撃決行の当日、国境(片方は国ではありませんが)のフェンスを切り、進入した二人をイスラエル軍が待ち受けピンチに陥りますが、そんなシーンにもスリルを盛り上げるような音楽や演出はほとんどなく、特に、変化を全く見せない主人公サイードの表情と相まって、ある時点から、これは大変な体験をしているのかも知れないと思い至るようになりました。 そう、まるで、ドキュメンタリー映像を見ているように・・。 歴史的知識としてのパレスチナ問題は少しは知っていたつもりではいましたが、必ずしも過激な思想信条の持ちとはいえない抑圧された大衆が、自爆テロへの路を選んでゆく事実、主人公の口から語られる言葉、行動からその圧倒的な現実を見せつけられました。 憎しみの連鎖、報復の応酬、いつか止める手だてがないのかという思いにも強く至りましたが、我が身の無力さをただ顧みただけでした。

 ストーリーの中盤、自爆に赴く2人にごちそうが振る舞われる場面がありますが、その食卓での画の構図がダ・ビンチの名画「 最後の晩餐」と同じになっています。このあたりには少し遊び心を交えた作者のジャブといった感じかなとの印象です。 

 エンディングはこの上なく劇的です。 そして、黒い背景に白い文字が流れるエンドロールの間、一切の音がないのです。 暗い劇場内でのその数分間の沈黙が、それまで体験したすべてを思い起こさせるのでした。  

 最近公開されたアメリカ映画「キングダム~見えざる敵~」で、米FBI捜査官と協力しテロリストと戦うサウジの国家警察大佐役を演じていたアシュラフ・バルフムという役者が、自爆攻撃を指揮する活動家の指揮官を演じていたのが、なんとも皮肉でした。

at MOVIX橋本

2007年11月18日 (日)

映画「麦の穂をゆらす風」

Photo_2
 美しいタイトルに惹かれ、公開からほぼ1年後の過日、予備知識をほとんど仕入れず鑑賞しに行きました。 近くのシネコンMOVIX橋本という劇場では、年に一度ファンの投票により選ばれたミニシアター系の作品を集中上映する「シネマ・ワールドカップ」という企画を行っていて、各国の作品を数百円で鑑賞できるのですが、今年はこの作品が初めに架かりました。

 映画のタイトルにもなっている「The Wind that Shakes the Barley」という美しい曲を澄んだ声で老婆が歌うシーンは、作品の冒頭に描かれるのですが、そこに至る惨劇から始まり、100年前のアイルランドの状況を描く,、悲しみのみに満ちた全編の作品感をすべて表しているように感じられます。 私自身、アイルランドの歴史については断片的知識以外はほとんど無く、映像から伝わってくるリアリティに只圧倒された時間でした。
 
 独立を手にするまでの苦難の道のりの後、やっと訪れた平和なひととき、しかし更に過酷な現実が待っていた・・・。 外敵との戦いの後、かつて共に戦った者同士の対立と争い。現在のアフリカや、中東などでも見られる事実です。 そして現在進行形のこの国の悲劇をもっと深く知ってみたいという気持ちにさせられました。 民族の自由と独立、平和日本にいてあまりにも普通に享受できていることが、いかに貴重なのか今一度向き合ってみたいと思います。

at MOVIX 橋本

2007年11月 4日 (日)

映画「アフター・ウェディング」

 去る11月1日。 「あぁもうすぐ年末だなぁ」などとAw_2
ぼんやりカレンダーを 眺めていた定休日の朝、映画の日だったことに”はた”と気づき、急いで上映スケジュールを物色していたところ、気になっていた「アフター・ウェディング」という作品が立川のシネマシティで架かっていることを発見、行って参りました。 この劇場は、昨秋「ホテル・ルワンダ」を短期間上映していたときに初めて訪れた劇場です。(そのときはシネマツーという姉妹館でしたが)

 スサンネ・ビアという女性監督が撮った デンマークの作品だそうで、はてデンマークの作品って観たことあったかな? と考えてみたら、自分としては初めてのようです。 好きな監督ラース・フォン・トリアーがデンマーク人ですが、彼のデンマーク語作品は観たことないので・・。

 インドで孤児の援助活動をする主人公ヤコブ(ジェイコブ)が、活動資金の提供提供を受けるためコペンハーゲンに向かうところから物語が始まります。資金援助者で実業家のヨンセンの娘の結婚式に出席することを強いられ、その幸せな宴のシーンからサスペンスドラマのごとく展開して行きます。 ヨンセンの妻は、ヤコブのかつての恋人で、異父娘のアナは、実はヤコブの娘だったというから、メロドラマのようでもあります。 ヨンセンはヤコブが、妻のかつての恋人であることを承知で、援助を申し出ただけでなく、益々接近してきます。その真意は・・

 まずは、インドの貧困街と、孤児たちの映像から物語は始まり、コペンハーゲンの町並みの美しさとお金持ち家族の豪華で幸せな結婚式描写との対比が際だちます。 そして、自身の故郷でありながら、居心地悪そうに振る舞う主人公が、その感を強めます。 やがて、ヤコブが実の父であると知った娘アナは、ぎこちなくも実父に対し愛情を示し始め、ヤコブもそれに応えます。 そして、物語の後半の骨になる、育ての親ヨンセンへの悲劇が待っていることが明らかになります。このため、ヤコブは、それまでの生き方と、かわいがってきたインド人少年との絆を捨て、故郷に戻り実の家族と生きることを迫られ苦悩します。 父娘の二人が、二つの家族を持ち、その狭間で揺れ動く心の描写といったあたりが物語のキモだなと感じました。 そしてもう一つ、強くて自信に満ち、家族愛に溢れ颯爽としているヨンセンが、次第に弱さと垣間見せるようになり、最終盤に描かれる絶望を前にした男の描写には胸を打たれます。

 全体に青っぽい映像作りが、落ち着いた雰囲気を醸しだし、いい感じです。手持ちカメラのような映像と、眼差しと手のドアップの描写が多用される手法が特色だ思いましたが、こちらは自分としてはあまりスキではありません。昔の(今のを知らないので)日本の少女コミックの画風みたいです。 そして、ストーリーの部分では、一代で身を起こし大物になったヨンセンが、なぜ自分の後継者にヤコブを選ぶに至ったかという部分で、残念ながら説得力を感じませんでした。 

 作品の善し悪しはについて客観的に語れる力が自分にはないので、好き嫌いを基準に採点すると60点くらいといったところでしょうか? 欧米人の家族愛への共感が必須です。

 同じフロアーのスクリーンでは、日本人の家族愛がテーマの「象の背中」を上映していて、偶然なのか上映館の意図があるのか、おもしろい組み合わせだと思いました。

at 立川 CINEMA CITY

2007年10月28日 (日)

映画「サルバドールの朝」

 少し前のこと、東京銀座に音楽ライヴを聴きに行く予定を入れていたので、滅多にない都心詣でのついでに、単館上映作品を鑑賞してきました。 作品は表題の「サルバドールの朝」というスペイン映画です。上映館のシャンテシネは、映画の街日比谷にあっても小さな劇場で、主にヨーロッパ作品を中心に上映している所謂ミニシアターです。 毎週金曜日の夕刊に、新しくかかる作品の広告が掲載されると、いつも魅力的な作品がそこに見つけられます。

 Photo
作品は、フランコ独裁政権下の末期の実話を元に描かれた作品とのことで、MILと呼ばれる反体制グループの活動に身を投じた主人公が、逮捕拘束され、理不尽な死刑に処される課程を描いたものです。 
 物語は、主人公が銃撃戦の末逮捕されるシーンから始まり、投獄された後、担当弁護士との会話の中で、そこに至った過去を振り返りながら進んでいきます。無鉄砲な若者が時代の空気に乗って突っ走っているかのような反体制活動の様、その仲間たちとの日常。それと対比するような普通の人生を送ろうと望む恋人との関わりなど。 そして、人権派担当弁護士の努力の甲斐なく、主人公サルバドールに死刑判決が下され、それを回避しようとする周りの人々の描写、次第に迫り来る死の瞬間へとつづく主人公の心の動き、担当看守の変化、家族、特に父親・末妹との関係などが後半のストーリーにちりばめられながら、悲劇へと向かって進んでいきます。

 観た後の感想は、当時のスペイン(カタルーニャ)の社会背景をある程度予備知識として持っていないと、作品の本質を理解するのが苦しいかなという印象が強く残りました。 多分、スペインの近隣欧州国では、基礎知識として多くの方が持っているだろうこの肝心の部分を、自分の無知故持ち合わせていないことで、全編に流れる思想的なテーマと、主人公の若者が当時の社会に与えたインパクトの大きさを実感できなかったことがイマイチ残念です、悲劇的なテーマの作品であるにもかかわらず、ドラマチックな描写は控えめで、感動の涙を期待して望みましたが、若干違った後味でした。 これが、制作者側の意図なのか、私自身が、物語の中で主人公の生き方に強いシンパシーを感じ得なかったからなのか、今は解りません。 

 しかしながら、主人公が残虐な方法で極刑に処されるという結末は予備知識として知っていたので、物語の終盤、処刑が近づくととともにその刑具(というのでしょうか?)を作っている作業の音が流れながら、その瞬間に近づいている描写には、胸が締め付けられました。

 サルバドールの棺が埋葬されるエンディングでは、事実を知った市民が多く弔問に押し寄せたとのクレジットが流れ、象徴的なシーンとして、雨に濡れた石畳に散らばった多くの赤いバラが映し出され、情緒的な結末を演出していますが、社会現象にまでなったというこの結末を、肌感覚で受け止められる鑑賞者がうらやましいです。

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