なんちゃって映画感想文 Feed

2008年5月 7日 (水)

「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」

Therewillbebloodアカデミー主演男優賞ダニエル・デイ=ルイスが演じた主人公は噂どおり凄かった。

 後味の悪い映画です・・などと書き始めると誤解されるかもしれませんが、主人公「ダニエル・プレインヴュー」の半生を延々と綴るこの長い作品を見終えて爽快な気分になれる方は、相当屈折した人生を送っていらっしゃるとしか思えません(笑)・・・ が、2時間半以上、最後までスクリーンに釘付けになりました。 

 100年前のアメリカ、一攫千金を望み、金の採掘から石油堀へと転身し、己の欲望と野心のためには非道もいとわない男の半生に共感を持つことは、現代の日本で普通の社会生活を営むヒトビトにはかなり難しいでしょうから、初め観客はかなり距離を置いて見ざるを得ないと思います。眉間にシワを寄せながら・・。 しかし、彼の生き様に象徴される強欲や人間不信などは、ほぼすべての人が持つ影の部分でもあるので、結局はどこかで受け入れざるを得ないのかも知れません。

 ストーリーの前半では、まだ人間味を見せるときもあるダニエルですが、天敵とも見て取れるカルト的な宣教師イーライ・サンデー(ポール・ダノ)との確執も相まって、中盤以降の欲にまみれたいやらしさぶりには参ります。いやはやすごいとしか形容しようがありません。「ギャング・オブ・ニューヨーク」での悪党ぶりも見事でしたが、更に凄味を増しているようです。

 "There will be blood" とは、"そこに血があるでしょう"=・・みたいな訳になるのでしょうか? 血とは勿論血縁の意味もあるでしょうし、あるいは現代文明の血液「油」の意もあるのかもしれません。 血の繋がりのない息子H.W.、途中で現れるダニエルの弟になりすました男、彼らへ扱いからもタイトルの裏側が透けて見えるようです。

 舞台はほとんどがアメリカの荒野で、乾いた岩と砂ばかりの風景にもかかわらず、映像はとても美しくつくられています。上のチラシの背景にもある、油井が炎を上げて夕暮れの空を焦がすがごとく燃えさかるシーンなどは、その真骨頂です。 また、全編に流れる呪術的な響きを持ち、不安をかき立てるような音楽も、作品テーマととてもマッチしていますのでこちらも注目です。

 最終盤は、財をなしたダニエルの邸宅内での出来事で締めくくられますが、エンディングのために用意された豪奢で洗練された美しい舞台と、最後の恐怖との対比がお見事です。

あ~胸くそ悪いが、すごい映画だ。


at 立川 CINEMA CITY

2008年4月26日 (土)

「つぐない」

Tsugunaiラヴ・ストーリーの名作か?オヤジも涙する悲恋物語。

 あちこちで高い評価を受けている作品でしたので、普段あまり触手の伸びない恋愛物語ですが見てきました。 大正解でした!

 基本のプロットは、深く愛し合う若き男女のかなわぬ悲恋物語なのですが、本が良くできているので全体の構成がとても骨太、そして、演出も極上です。


 第二次世界大戦前夜、舞台は夏の英国、物語好きの少女13歳のブライオニー(シアーシャ・ローナン)がたたくタイプライターのキー音に乗せた上品なBGとともに幕が開き、上流の暮らしぶりが披露されるかたちで、登場人物像などが描かれます。この冒頭は、お堅い文芸作品のニオイが強くて、ちょっと失敗だったかな?と思っていましたが、さにあらず、展開はどんどん深まっていきます。

 大学を卒業したばかりの美しい姉セシーリア=スー(キーラ・ナイトレイ)と、使用人の息子で一緒に育ったロビー(ジェームズ・マカヴォイ) は、身分を超え惹かれあっています。若い二人が次第に近づいていく様を、幼い妹ブライオニーが垣間見ることで、多感な少女がほのかに恋心を抱いていたロビーへの複雑な思いからくる思いこみと嘘により、悲劇へとつながっていきます。

 スーとロビーがぎこちなく、次第に深く近づいていく様子を、初めに妹の視線から描き、その後時間を戻し視点を変え、真実が描かれるという手法で、大人の世界と子供の価値観の差をうまく表現する演出が素晴らしいと思います。 二人のラヴシーンはエロチックですが非常に上品で、センスの良さを感じました。

 妹の証言によって濡れ衣を着せられ、罪人となったロビーは牢から出る代償として兵士になり、戦争が勃発したフランス戦線に送られ、姉スーは家を出てロンドンで看護婦として働いています。  戦時中ロンドン、二人のつかの間の再会シーンも美しく涙を誘います。 そして、二人への仕打ちの罪の重さに気づいた妹も、看護学生となって、負傷した兵士のいる病院で手伝いをしながら、相変わらず物語を書いていますが、さらっと語られるこのシーンに、後への複線も張られています。

 その後息をのむ映像が登場します。 敗走したイギリス軍が、ダンケルク海岸に集結し、「ダイナモ作戦」と名付けられた撤退を待つシーンですが、命からがらここにたどり着いたロビーと仲間2人が、丘の上から数十万人の人並みを見下ろし、「聖書みたいだ・・」とつぶやきますが、まさにスペクタクルな光景です。そこから数分間続く長回しの映像では、軍馬を射殺し、装甲車を破壊し、海を隔てた祖国に向きながら合唱する傷ついた兵士達など退却軍の現実が曇天のほの暗い色の映像で次々と描かれます。すごい! このあたりの映像作りが、単なる恋愛物語以上の深みを与えているのではと思います。

 そして、驚きのエンディング。 タイトルとなっている「つぐない」の意味と、それまで描かれてきたストーリーの重みにあらためて気づかされることになります。 作家となった老齢のブライオニーが語る言葉から、前半の悲劇に至るまでの演出法や、つかの間の逢瀬を過ごす二人への描写の必然にも納得がいきます。 

 是非ご覧になり、深い感動と余韻を味わってください。若き才能ジョー・ライト監督の力量が光る、素晴らしい作品、オススメです。


at TOHOシネマズららぽーと横浜

2008年4月19日 (土)

「The FEAST」

Feast_1_1b  B級ホラーのエッセンスを思いっきり詰め込み!驚愕?展開のスプラッター。

劇場ではあまり観ないB級ホラーを鑑賞してきました。かのマット・デイモンとベン・アフレックコンビ主催の新人発掘脚本コンテスト「プロジェクト・グリーンライト」から誕生した作品だそうです。

 90分に満たない短い作品でしたが、かなり楽しめました。当然グロあり、お色気あり、おバカネタありのこれぞB級というお手本のような出来だというのが総括(笑)です。 少し前に上映された、タランティーノとロドリゲスの企画モノ「プラネット・テラー」「デス・プルーフ」に勝るとも劣らないバカバカしさでお腹いっぱいになります。米国の"グラインドハウス"で観たら、大爆笑と指笛ヒューヒューの渦に巻き込まれるのではないかと想像してしまいました。

←オソロシげな姿が描かれたチラシ。果たして・・?

 冒頭、登場人物のキャラをシリアスなストップモーションで順に紹介していくのですが、その説明テロップにそいつらの寿命が書かれているのにいきなり笑わされます。英語力に乏しいので、字幕の説明を読むのですが、原文を理解できたらもっと笑えたかもしれません。 しかし十数人の登場人物のキャラとポジションを覚えるのは辛いな~と思っていると、いきなり数人がモンスターに食われてしまうので、全く心配無用でした。やられた(笑)

 普通のホラーでは餌食にならないとされているキャラクターが次々やられたり、次はこいつが死にそうだという所謂フラグの立ったやつが以外とがんばったりと、定説を覆す展開は痛快です。 一番可笑しいのが、でかくてヌメヌメでグロ、凶暴モンスターが、殺された我が子の代りを生み出すために"繁殖のための愛の行為"をしてしまうシーンです。(どひゃ~!!)  

 他にも、今流行り言葉でいうところの「ありえない!」展開の連続で、「既存のホラー映画に似てないものを作った」というふれ込みも、まんざら大袈裟でないかなと思います。

 当然、大多数のみなさんに受けるタイプの作品ではないのですが、映画のひとつの醍醐味を味あわせてくれますから、洒落のわかる方よろしければ・・というところですね。 

 念のため申し添えておきますが、ホラー映画なので、それなりに怖く、ドキドキします。コメディの笑いではありませんからお間違いなく。

 FEASTの意味を知らなくて後から調べたのですが、祝宴、 ごちそう、 楽しみという意味らしいです。なるほど・・!


at シアターN渋谷

2008年4月 7日 (月)

「バンテージ・ポイント」

綿密に練られた脚本に唸らされる、息をもつかせぬサスペンス&ノンストップアクション。

Poster1  上映時間90分と比較的短めの作品でしたが、120%楽しめました。黒沢明監督の「羅生門」のサスペンス手法をなぞったとの解説もありますが、哲学的表現があるわけではありません。

 合衆国大統領が、公衆の面前で狙撃され、尚かつ同じ現場で爆弾テロも起きるというというショッキングなシチュエーションを、関連した8人の登場人物の視点から映像化するという凝った手法で、まさしく映画の醍醐味を堪能させてくれました。 

 初めに、群衆の前で演説する大統領の姿を中継するTVクルーが登場、その生中継の最中に事件が起きます。そのTV中継クルーの映像配信の様子が、作品のその後の映像作りをナビゲートするがごとく象徴しています。 続いて主役のデニス・クェイド演ずるシークレットサービス"バーンズ"の、早朝の場面から、爆発後までが描かれますが、その朝の場面に戻るまでの時間を逆行させるのに、ビデオテープをキュルキュルっと巻き戻すかのような映像で見せてくれます。 大統領狙撃と、大爆発シーンとその後少しだけ進展する展開・・そこからまた次の登場人物のパートへと移ってゆく際にもやはりキュルキュル戻りが繰り返されます。(その度に大統領は撃たれ、爆発が起きるのですが・・。) 

 ん!また戻るの?と、何度も思いつつ見進んでいると、その都度最後に少し新たな展開が入ってきて、真実に近づいてゆくという手法も、小憎らしいくらい計算されています。

 フォレスト・ウィテカー演ずる旅行者が持っているハンディビデオが犯人捜しの道具になったり、バーンズが、TV中継車の放送用ビデオテープから真犯人を見つけ出したりと、映画全体の作りに、時間を逆行して映像を再現できるビデオの特徴をうまくリンクさせているなと感じました。

 この作品のおもしろさを文章で伝えるには、私の作文力はあまりに拙いので、是非劇場でご覧になることをお勧めします。 後半のカーアクションも上級ですし、8つのパートが最後にリンクして、なるほどと納得することで、そこまでのストーリーが、とても綿密に創られていたことに感心させられると思います。脚本の勝利というところでしょうか?

  少しだけ(?)が浮かんだのは、今どきの映画にしては、米国大統領の描き方が好意的過ぎるかなという点ですが、自分の身を挺して最高権力者の警護をする役目のシークレットサービスの活躍には、大統領をそれなりの人物に描かねばならない宿命があるタイプの作品なので割引きを差し上げなくてはいけないですね。

 犯人達の思想信条や、国籍・セクトなど説明的な部分はありませんので、政治的な側面はほとんどない純粋な娯楽作品です。 DVD化されたら、ストップやスロー再生を駆使して、意地悪く細かい点まで何度もチェックしながら見てみたいです(笑)


at MOVIX橋本

2008年3月30日 (日)

「ダージリン急行」

The_darjeeling_limited くすくす笑って、じんわり癒されるゆる~いロードムービー

 結構お気に入りのくせ者監督"ウェス・アンダーソン"作品を観てきました。はじめに「ホテル・シュバリエ」という短編が上映されます。本編に関わる男女二人が描かれる、それだけでは、そのポジションがよくわからない作品ですが、本編でなるほど!と理解させてくれます。楊枝をくわえたショートカットの"はすっぱ"ナタリー・ポートマンのヌードが綺麗です。

 本編の主役は男三兄弟、父の死後、絶縁状態にあった関係を修復するために、長兄の誘いでインド旅行が始まります。ストーリーが進んでも、絶縁に至った理由や、兄弟の過去などに触れる説明的な部分はほとんどなく、観客は兄弟同士の会話にその糸口を探さねばなりません。 ?を頭に浮かべたまま、「兄弟の結束を取り戻そう!!」と、大まじめに旅を続ける彼らに付き合い、その"おまぬけ"ぶりにくすくす笑わされます。結局、兄弟の心のもつれた糸は簡単にはほどけず、旅は終わりになってしまうと思われるのですが、後半の重要なエピソードによって思わぬ展開を見せ、味のある終盤へ続いていきます。 

 ゆるーい作りの映像を見ているうちに、いつの間にか作品の世界に引き込まれ、見終わったあと不思議な爽快感に満たされました。怒り、驚き、悲しみ、そして感動など心が揺さぶられるというタイプの作品ではありませんが、しみじみいい作品だなぁ~というのが感想です。 75点を差し上げましょう。
ただ、こういう作品がまったくだめな人もたくさんいるだろうなとも思いましたが。

 ビジュアル的には、輝く陽光と、至る所で目にする鮮やかな色彩がインド独特の雰囲気演出するのにとても効果的で、70'sを中心としたポップ・ロックと印度音楽がサウンドトラックに多く使われているのも、映像とよくマッチしていて気持ちよかったです。

 三兄弟のキャラクターがそれぞれとても“濃い”のですが、なかでも「戦場のピアニスト」エイドリアン・ブロディの悲しげな"ハの字"眉毛のオトボケぶりにヤラれました(笑)


at 立川 CINEMA CITY

2008年3月 7日 (金)

「君のためなら千回でも」

1000 とても、心に浸みる作品でした。 原題は「The KiteRunnner」というそうですが、物語の中で語られる言葉「君のためなら千回でも」が、日本公開でのタイトルに使われています。 

 70年代のアフガニスタン 平和で活気のあるカブールの風景が活き活きと再現されていることに、冒頭から心をわしづかみにされます。 そして、それに華を添えるCGを駆使したと思われる凧合戦を追ったアクロバチックなカメラワークは、テクノロジーの上品な使い方として秀逸だと思います。 そして、後半ソ連侵攻後の、荒廃した町並みをリアルな対比をもって見せるチカラは「さすがアメリカ映画!」と唸らされるところです。

 ストーリーの本筋は、主人公が過去の過ちに対する贖罪がテーマに据えられていると感じましたが、そこに至るすべてのエピソードが、丹念に作り込まれていて、誰でも心に思い当たるであろう、自分の犯した過去の過ちへ「許し」を願う心の琴線に触れる作品になっていると思います。 そして、生まれや民族問題、時代と政治や社会情勢に翻弄された2人の少年の、それぞれの立場と友情を軸に、人が持つ様々な要素も描き出され、人間ドラマとしての深みが見て取れます。  
 
 メインの少年二人も勿論ですが、主人公アミールの父親がとても魅力溢れる人物として描かれていて、とても素敵でした。 そして、アミールに強い影響を与えた、父親の友人
ラヒム・ハーンも同様です。 この頃の男達は、かっこよかったんですね。

 是非もう一度、しっかり観てみたい作品となりました。 90点差し上げたいです。

 余談ですが、作品鑑賞中の劇場で、今時には珍しく、電気系統のトラブルで上映が中断してしまうハプニングに見まわれました。ストーリーの終盤、やや手に汗握るシーンの最中だったので、ちょっと残念なことでしたが、帰りにゴメンナサイ招待券をもらったので、少し許してあげることにしました(笑)


at 立川 CINEMA CITY

2008年2月 9日 (土)

「ヒトラーの贋札」「勇者達の戦場」

Photo_2  1月の後半、正月の代休が何日か取れたので、映画のはしごをしてきました。 


 今年最初は「ヒトラーの贋札」。 第2次大戦中、ナチに強制収容されたユダヤ人の中から、“ベルンハルト作戦”と名付けられた敵国紙幣の偽造作戦に従事させられた人々の物語です。

 ナチの残虐非道については語るまでもありませんが、この作品はそれらの描写を控えめにし、偽札作りに関わった人々がおかれた状況と心理がメインになっていることで、サスペンス調の娯楽作品として楽しませてもらいました。

 主人公の、紙幣を含む公文書偽造のプロ(勿論犯罪者)"サロモン・ソロヴィッチ"は、自分と、関わった周りの仲間の命を長らえるためナチに協力し偽札作りに取り組んでいきます。 一方原作の著者でもあり印刷技術者の"アドルフ・ブルガー"は、ナチの作戦に荷担することで戦争をドイツ有利に導き、ユダヤ人の立場をますます危うくすると考え、偽札作りをサボタージュします。 そして、完成を急ぐ責任将校"ヘルツォーク"は、偽ドルの完成か、仲間の命か選択するよう迫ります。 自分の命と仲間の命、もっと大所からの戦争と同胞への正義感、どちらがより尊いかを語るのは無意味だと思いますが、人にとっての究極の選択ともいえるこの状況が緊迫感を生んでいます。  作業に関わったユダヤ人達それぞれの立場での人間描写、ナチ将校の意外な紳士ぶりなど、細かいところも良く描かれていて、また、戦争を背景に作られた映画にしては銃撃戦は一度も登場しません。(多分)  強制収容され虐待されたユダヤ人と、作戦に関わったメンバーとの扱いのギャップを対比するため、冒頭サロモンが一般収容されていたときと、終戦時に解放された囚人の様を描くことで状況を再確認させられますが、 全体に残虐さを抑えめにしたことで、悲惨なイメージで覆われなかったところが良かったと思います。

現代の偽札と言えば、某社会主義独裁国の公共事業「スーパーK」が思い浮かびますが、米ドルというのはそんなに簡単に偽造されてしまうものなのでしょうか・・??

at 日比谷 シャンテ・シネ

Home_of_the_brave_3 午後2本目に突入、こちらは今のアメリカが直面している戦いをテーマにした「勇者達の戦場」。 原題は“Home of the brave”「勇者の家」とでもなるのでしょうか? イラクに派遣された兵士達の帰還後を描いた所謂社会派の作品です。 今も活動を続けているイラク戦争後の治安維持部隊が戦闘に巻き込まれ、心身ともに傷つき帰国するところから物語は始まり、そのメンバー数人の帰国後の苦しみを辿ってゆく手法で、アメリカが抱える闇の一端をあぶり出していきます。 

 自由と正義の名の下に世界中に軍隊を派遣し、その掲げる理想を犯すもの達を敵と見なし戦いを挑み続ける・・「覇権国家アメリカ」。  正義の戦いを続けるには、戦場に赴く兵隊が必要であり、そこには生身の身体と心を持った人間がいることにあらためて目を向けさせられます。 そして、そこで戦った者達が傷を負った心と身体のまま平和な母国に戻ると、そこにはもう一つの戦場があった・・なかなかうまいタイトル訳ではないでしょうか。 夕食時にダイニングのTVで毎日の流されるイラク情勢を、遠い地球の裏側の出来事としか捉えられない平和慣れした「普通の人たち」と、極限の体験をして戻った兵士達とのあまりのギャップが、リアリティをもって迫ってきます。 主な登場人物4名が各々違った苦しみを抱え、苦悩する様の演出・演技は共に素晴らしいと思いました。  物語の半ば、セラピーに参加したメインキャラのひとり"ジャマール"が、同席した熟年男に「どこで戦ったんだ?」と聞くと、「ベトナム」と答えるシーンがありますが、このテーマは30年以上かかっても解決できない深い闇なんだと言うことを思い知らされるシーンです。 このあたりをエンタメに味付けすると「ランボー」になるのでしょうか?

 冷戦後の新たな敵イスラム原理主義過激組織を相手取り、自由と正義の旗のもと「テロとの戦い」を続けるアメリカ。 本作品で描かれたような犠牲者達を次々に自身の国内に生み続けなくてはならない負の現実と、政策決定に大きな影響力を持つといわれる「産軍複合体」の利益構造の現実、どちらも現代アメリカのリアリティなのでしょう。

at 銀座シネパトス

2007年12月13日 (木)

今年最後の・・「ツォツィ」「パラダイス・ナウ」

 年末は、だんだん忙しくなって来るので、今年最後と思い2本続けて鑑賞してまいりました。どちらも、以前にロードショー公開されたものの再上映です。1本目は「ツォツィ」。《アパルトヘイト後も続く南アフリカの過酷な現状と、未来への希望を見つめ、第78回アカデミー賞外国語映画賞を受賞した作品》との解説があります。 2本目は「パラダイス・ナウ」 《第78回アカデミー賞外国語映画賞ノミネートの他各国映画賞を多数受賞》とのこと。 映画賞受賞作が自分の好みと一致するかというと、必ずしもそうばかりではないのですが、一応期待は高まります。


Tsotsi はじめに「ツォツィ」への感想文から・・。 シンプルなストーリーで、特にひねりもないので、南アの情景描写と、主人公の生き様への共感を得られるかが、本作を楽しめるる条件かも知れません。 最も貧しく危険だと評されるヨハネスブルグのスラムに暮らす不良主人公の冷酷な日常が、ある日を境に一変し、次第に人間性に目覚めてゆくというのがメインのテーマです。
 まずはネガティヴな感想から・・。残念ながら、決定的にストーリー(脚本)のまずさが目についてしまった部分があります。それは、主人公が、裕福な女から強奪した高級車の後部座席に、赤ん坊を発見し、自分の住処に津連れて帰る場面ですが、それまでの冷酷非道な不良少年が、何故そのような行動に思い至ったかという必然性に説得力がなく、その後に描かれる、赤ん坊との暮らしぶりなどがイマイチウソっぽく見えてしまうのです。 劇中もっともエポックとなる場面だけに、とてももったいないと思ってしまいました。 一方、南アの現在を描く部分には、結構ショックを受けました。 地下鉄構内の横断幕に大書きされたAIDSに対する警告文、そしてその病で死んだであろう主人公の母親、空き地の土管で暮らすストリートチルドレン等々。 また、主人公の他者を射すくめるような眼差しと、その奥に潜む悲しみの光。 そして、その目にやがて宿る暖かさの描写などにも見るべきものはあると思いました。 
 主人公がエンディングで流す涙に共感し、自分も泣ける方はシアワセかも知れませんが、私にそこまでの感動は、残念ながらありませんでした。


Paradisenow
さて、もう1本「パラダイス、ナウ」。こちらは、長く自分の心にとどまるであろう作品になりました。 イスラエル占領下パレスチナの真実の姿を知るには貴重な作品です。

 まず、冒頭から全体を覆うイメージの象徴的な場面で始まります。 美貌のパレスチナ人女性スーハとイスラエル兵との間で無言で進む数分間のやり取りは、もしや何かが起きるのではと思わせるような緊張感に満ち、両者の立場をとてもよく表しています。 そして、自爆攻撃志願者の主人公サイードとハーレドは、ヨルダン川西岸のイスラエルによる占領地に住む、パレスチナの若者です。彼らには未来への展望も、希望も夢もなく日々を送っていますが、狂信的な振る舞いは見られません。 ある日、サイードとスーハが出会い、シンパシーをお互いに感じるのですが、その直後サイードとハーレドへ、自爆テロ攻撃への命令が下ります、それも、翌日!!  活動家のグループと接触した二人は、テルアビブでの自爆攻撃に向け準備を進めてゆくことになります。

 物語はひたすら淡々と進みます。 攻撃決行の当日、国境(片方は国ではありませんが)のフェンスを切り、進入した二人をイスラエル軍が待ち受けピンチに陥りますが、そんなシーンにもスリルを盛り上げるような音楽や演出はほとんどなく、特に、変化を全く見せない主人公サイードの表情と相まって、ある時点から、これは大変な体験をしているのかも知れないと思い至るようになりました。 そう、まるで、ドキュメンタリー映像を見ているように・・。 歴史的知識としてのパレスチナ問題は少しは知っていたつもりではいましたが、必ずしも過激な思想信条の持ちとはいえない抑圧された大衆が、自爆テロへの路を選んでゆく事実、主人公の口から語られる言葉、行動からその圧倒的な現実を見せつけられました。 憎しみの連鎖、報復の応酬、いつか止める手だてがないのかという思いにも強く至りましたが、我が身の無力さをただ顧みただけでした。

 ストーリーの中盤、自爆に赴く2人にごちそうが振る舞われる場面がありますが、その食卓での画の構図がダ・ビンチの名画「 最後の晩餐」と同じになっています。このあたりには少し遊び心を交えた作者のジャブといった感じかなとの印象です。 

 エンディングはこの上なく劇的です。 そして、黒い背景に白い文字が流れるエンドロールの間、一切の音がないのです。 暗い劇場内でのその数分間の沈黙が、それまで体験したすべてを思い起こさせるのでした。  

 最近公開されたアメリカ映画「キングダム~見えざる敵~」で、米FBI捜査官と協力しテロリストと戦うサウジの国家警察大佐役を演じていたアシュラフ・バルフムという役者が、自爆攻撃を指揮する活動家の指揮官を演じていたのが、なんとも皮肉でした。

at MOVIX橋本

2007年11月18日 (日)

映画「麦の穂をゆらす風」

Photo_2
 美しいタイトルに惹かれ、公開からほぼ1年後の過日、予備知識をほとんど仕入れず鑑賞しに行きました。 近くのシネコンMOVIX橋本という劇場では、年に一度ファンの投票により選ばれたミニシアター系の作品を集中上映する「シネマ・ワールドカップ」という企画を行っていて、各国の作品を数百円で鑑賞できるのですが、今年はこの作品が初めに架かりました。

 映画のタイトルにもなっている「The Wind that Shakes the Barley」という美しい曲を澄んだ声で老婆が歌うシーンは、作品の冒頭に描かれるのですが、そこに至る惨劇から始まり、100年前のアイルランドの状況を描く,、悲しみのみに満ちた全編の作品感をすべて表しているように感じられます。 私自身、アイルランドの歴史については断片的知識以外はほとんど無く、映像から伝わってくるリアリティに只圧倒された時間でした。
 
 独立を手にするまでの苦難の道のりの後、やっと訪れた平和なひととき、しかし更に過酷な現実が待っていた・・・。 外敵との戦いの後、かつて共に戦った者同士の対立と争い。現在のアフリカや、中東などでも見られる事実です。 そして現在進行形のこの国の悲劇をもっと深く知ってみたいという気持ちにさせられました。 民族の自由と独立、平和日本にいてあまりにも普通に享受できていることが、いかに貴重なのか今一度向き合ってみたいと思います。

at MOVIX 橋本

2007年11月 4日 (日)

映画「アフター・ウェディング」

 去る11月1日。 「あぁもうすぐ年末だなぁ」などとAw_2
ぼんやりカレンダーを 眺めていた定休日の朝、映画の日だったことに”はた”と気づき、急いで上映スケジュールを物色していたところ、気になっていた「アフター・ウェディング」という作品が立川のシネマシティで架かっていることを発見、行って参りました。 この劇場は、昨秋「ホテル・ルワンダ」を短期間上映していたときに初めて訪れた劇場です。(そのときはシネマツーという姉妹館でしたが)

 スサンネ・ビアという女性監督が撮った デンマークの作品だそうで、はてデンマークの作品って観たことあったかな? と考えてみたら、自分としては初めてのようです。 好きな監督ラース・フォン・トリアーがデンマーク人ですが、彼のデンマーク語作品は観たことないので・・。

 インドで孤児の援助活動をする主人公ヤコブ(ジェイコブ)が、活動資金の提供提供を受けるためコペンハーゲンに向かうところから物語が始まります。資金援助者で実業家のヨンセンの娘の結婚式に出席することを強いられ、その幸せな宴のシーンからサスペンスドラマのごとく展開して行きます。 ヨンセンの妻は、ヤコブのかつての恋人で、異父娘のアナは、実はヤコブの娘だったというから、メロドラマのようでもあります。 ヨンセンはヤコブが、妻のかつての恋人であることを承知で、援助を申し出ただけでなく、益々接近してきます。その真意は・・

 まずは、インドの貧困街と、孤児たちの映像から物語は始まり、コペンハーゲンの町並みの美しさとお金持ち家族の豪華で幸せな結婚式描写との対比が際だちます。 そして、自身の故郷でありながら、居心地悪そうに振る舞う主人公が、その感を強めます。 やがて、ヤコブが実の父であると知った娘アナは、ぎこちなくも実父に対し愛情を示し始め、ヤコブもそれに応えます。 そして、物語の後半の骨になる、育ての親ヨンセンへの悲劇が待っていることが明らかになります。このため、ヤコブは、それまでの生き方と、かわいがってきたインド人少年との絆を捨て、故郷に戻り実の家族と生きることを迫られ苦悩します。 父娘の二人が、二つの家族を持ち、その狭間で揺れ動く心の描写といったあたりが物語のキモだなと感じました。 そしてもう一つ、強くて自信に満ち、家族愛に溢れ颯爽としているヨンセンが、次第に弱さと垣間見せるようになり、最終盤に描かれる絶望を前にした男の描写には胸を打たれます。

 全体に青っぽい映像作りが、落ち着いた雰囲気を醸しだし、いい感じです。手持ちカメラのような映像と、眼差しと手のドアップの描写が多用される手法が特色だ思いましたが、こちらは自分としてはあまりスキではありません。昔の(今のを知らないので)日本の少女コミックの画風みたいです。 そして、ストーリーの部分では、一代で身を起こし大物になったヨンセンが、なぜ自分の後継者にヤコブを選ぶに至ったかという部分で、残念ながら説得力を感じませんでした。 

 作品の善し悪しはについて客観的に語れる力が自分にはないので、好き嫌いを基準に採点すると60点くらいといったところでしょうか? 欧米人の家族愛への共感が必須です。

 同じフロアーのスクリーンでは、日本人の家族愛がテーマの「象の背中」を上映していて、偶然なのか上映館の意図があるのか、おもしろい組み合わせだと思いました。

at 立川 CINEMA CITY

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