なんちゃって映画感想文 Feed

2008年6月19日 (木)

「アフタースクール」

分かっていながらはめられる快感に酔う。そして反芻する楽しさ。一粒で2度オイシイ上質エンタテインメントAfterschool

 このところの映画レビューで、満足度1位をキープしている作品でしたので、期待を持って観に行きました。 果たしてその期待に違わず、上質エンタテインメントとして十分楽しめました。 

 面白さの決めては、緻密に練られ構成された脚本によるところが大きいと思います。 その監督・脚本は内田けんじ、前作「運命じゃない人」が話題になった監督です。 そういうわけで内容に触れるとオイシイところを暴露してしまうので、もし、これからご覧になろうという方がいらしたら申し訳ありませんから、極力触れずにおきたいと思いますが・・。

 主役は、大泉洋、佐々木蔵之介、堺雅人、人気の3人ですが、その他ストーリーの展開に関わる重要な配役が何人かいます。 前半1/3くらいまでに見る映像から、登場人物それぞれに対する、断片的情報や思いこみによって人の目がどれだけ惑わされているのかというあたりをスルドく突かれ、刷り込まれの度合いが強いほど、作り手のテクニックに、よりきれいにハメられることになります。起承転転結という構成とでもいえるでしょうか。

 裏街道を歩く探偵家業の男(佐々木)と、マジメなお人好し中学教師(大泉)の最後の会話、それによって二人に対する、それまでの先入観、評価がひっくり返されるのも快感でした。 こんな世の中だけど、捨てたもんじゃないよ・・という作り手のメッセージが聞こえてきそうです。

 見終えてすぐに記憶の糸を手繰り、ネタ振りとオチとの関係を一つ一つ振り返ってみる楽しさも、この作品のもう一つの醍醐味かもしれません。同行者とのお茶タイムが充実しそうです。

 全体のテンポが良く、コミカル、シリアスがほどよくバランスされているあたりも好感が持てます。 ぜひご覧になり、騙される快感に酔ってみてください。


at 立川CINAMATWO

2008年6月 2日 (月)

「ミスト」

Mist_1_1b やりきれなさの極み、上映終了後しばらく無口になってしまいます。

 いろいろなレビューで、とても高い評価をされる方が多いので、どうしても見ておかねばと思っていました。 原作スティーヴン・キング 監督フランク・ダラボンとくれば左のチラシにもでかでか書かれているように、あの2作のコンビですから。 

 キングの映画化は過去にとても多く、なかには「え"!そりゃないでしょ?!」と、激しく突っ込みたくなるものもあったので、油断はならないのですが、ダラボン監督が手がけた本ならと、それなりの期待を持って望みました。

 ミスト=霧 英語にはFogという単語もあるので、ネイティヴの方にはそのニュアンスの違いがわかるのかも知れません。

 霧の中から現れる異形の怪物達。 昆虫型、は虫類型、両生類型、節足動物型、そしてゴブリンのようなものまで、およそ人が気味悪いと思うタイプの生き物が次から次へと襲ってくる中盤まで、もうほとんど全身総チキンスキン状態が続きます。なかでも最高グロで勘弁して欲しかったのは、餌食になった人間の皮膚がボコボコっと膨らみ、そこから蜘蛛みたいなやつが皮膚を破りうじゃうじゃ出て来てその直後(蜘蛛の子を散らすように)ざわざわっと散らばっていったシーンです。ウェ~。( 擬音ばかりでスミマセンm(_ _)m )

 しかし、本当に怖く、総毛立つのはその後でした。 こぢんまりしたスーパーに閉じこめられた密室状態で怪物達の総攻撃を受け、だんだん追い詰められゆく人々が、イカれた宗教オバサンの言葉に感化され始めます。 

 モンスターが霧と共にこの地に現れた理由が中盤に明かされるのですが、これを知ったオバサンとその同調者達が「これは傲慢な人間の行いが、神の怒りにふれたからだ! この事態を招いたものを生贄に捧げよ!」と騒ぎ、事実を話した若き兵士を怪物の餌食にしてしまいます。めちゃオソロシーです。そして次なる生贄は・・。

 次第に疑心暗鬼に陥り、やがて本性と敵意をあらわし始める人々、それを煽る狂信的な指導者。 少数派になってしまい、その怒りの矛先を向けられたまともな人たちは、その恐怖からいかに逃れるのか? 

 そして、問題のエンディングです。 賛否両論、様々の物議を醸し出したといわれる15分間は、想定を遙かに超える結末で、見る者の心は、ひたすらやりきれなさに満たされます。 これからご覧になろうという方は、ダメージをうけた心で望まれるのはお控え下さいと警告したくなるほどです。 最後の主人公の叫びが、見る者の胸にぐさっと突き刺さります。

 とても、よくできた素晴らしい作品と思いますが、二度とこのエンディングは見たくありません。


at TOHOシネマズ海老名

2008年5月24日 (土)

「マンデラの名もなき看守」

Photo 南アフリカ共和国初の黒人大統領"ネルソン・マンデラ"20余年の収監の間、専属看守となった男の実話。 なかなか味わいのあるヒューマンドラマです。原題は「GOODBYE BAFANA」。意味は、作品を最後まで観ると解ります。

 その生い立ちから、コーサ語(南アの黒人が話す言葉)が理解できることで、政治犯マンデラ一派の言動を監視するための専属看守となったグレゴリー(ジョセフ・ファインズ)は、それまでのうだつの上がらない暮らしから出世への足がかりを得たと思い、家族と共に移り住んだロベン島の刑務所で、使命感に燃え、収監者達の企てを見抜き、手柄を重ねて行きます。 しかし、マンデラと接することで、彼の人間性、思想に次第に傾倒していき、自身と家族の立場と仕事、マンデラ(デニス・ヘイスバート)への共鳴との板挟みに苦しむことになります。

 実話が元になっているので、ネルソン・マンデラがその後どのような道を歩んだか、悪名高きアパルトヘイト政策がどうなったかは周知の事ですが、本人の伝記ではなく、相反する思想を持った平凡な人間が感化され、変化していく様を描くことで、間接的に彼の偉大さを語るという手法が秀逸だと思いました。

 ストーリー中、グレゴリーが閲覧禁止文書として保管されている「自由憲章」を盗み出すシーンや、胸ポケットに忍ばせているシーンなどはちょっとしたサスペンス仕立てで、面白いアクセントになっています。 また、奇しくも、囚人と看守が共に息子を失うという悲劇で結びつくのですが、どちらも交通事故死という直接原因の裏に何かあるようなニュアンスが漂うあたりに同国の影の部分がちらついて、薄寒くなってしまいました。

 主な登場人物、マンデラ、グレゴリー、その妻役の3人が、見事な演技で作品の味わいとリアリティを深めています。 オススメです。

at 立川 CINEMA CITY


 <オマケ> 

 80年代半ば、英米のポップスターがアフリカの飢餓救済チャリティーで楽曲を発表していた頃、「SUNCITY」という同じようなレコードも世に出ました。 日本では前者ほど大きな話題にはなりませんでしたが、こちらは南アのアパルトヘイト政策に反対するミュージシャン達の共同製作作品でした。以下、YouTubeから、そのビデオ・クリップです。

 この映画をきっかけに、アパルトヘイトのことを少し調べ直してみましたが、その終焉には、東西冷戦終結による国際情勢の変化が多分にあったらしく、単に人道的な必然だけでは無いようで、寂しい思いがしますが、冷たい現実とはそんなものかもしれません。 少なくとも、これから同じような差別が復活することだけは無いよう願うばかりです。

2008年5月 7日 (水)

「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」

Therewillbebloodアカデミー主演男優賞ダニエル・デイ=ルイスが演じた主人公は噂どおり凄かった。

 後味の悪い映画です・・などと書き始めると誤解されるかもしれませんが、主人公「ダニエル・プレインヴュー」の半生を延々と綴るこの長い作品を見終えて爽快な気分になれる方は、相当屈折した人生を送っていらっしゃるとしか思えません(笑)・・・ が、2時間半以上、最後までスクリーンに釘付けになりました。 

 100年前のアメリカ、一攫千金を望み、金の採掘から石油堀へと転身し、己の欲望と野心のためには非道もいとわない男の半生に共感を持つことは、現代の日本で普通の社会生活を営むヒトビトにはかなり難しいでしょうから、初め観客はかなり距離を置いて見ざるを得ないと思います。眉間にシワを寄せながら・・。 しかし、彼の生き様に象徴される強欲や人間不信などは、ほぼすべての人が持つ影の部分でもあるので、結局はどこかで受け入れざるを得ないのかも知れません。

 ストーリーの前半では、まだ人間味を見せるときもあるダニエルですが、天敵とも見て取れるカルト的な宣教師イーライ・サンデー(ポール・ダノ)との確執も相まって、中盤以降の欲にまみれたいやらしさぶりには参ります。いやはやすごいとしか形容しようがありません。「ギャング・オブ・ニューヨーク」での悪党ぶりも見事でしたが、更に凄味を増しているようです。

 "There will be blood" とは、"そこに血があるでしょう"=・・みたいな訳になるのでしょうか? 血とは勿論血縁の意味もあるでしょうし、あるいは現代文明の血液「油」の意もあるのかもしれません。 血の繋がりのない息子H.W.、途中で現れるダニエルの弟になりすました男、彼らへ扱いからもタイトルの裏側が透けて見えるようです。

 舞台はほとんどがアメリカの荒野で、乾いた岩と砂ばかりの風景にもかかわらず、映像はとても美しくつくられています。上のチラシの背景にもある、油井が炎を上げて夕暮れの空を焦がすがごとく燃えさかるシーンなどは、その真骨頂です。 また、全編に流れる呪術的な響きを持ち、不安をかき立てるような音楽も、作品テーマととてもマッチしていますのでこちらも注目です。

 最終盤は、財をなしたダニエルの邸宅内での出来事で締めくくられますが、エンディングのために用意された豪奢で洗練された美しい舞台と、最後の恐怖との対比がお見事です。

あ~胸くそ悪いが、すごい映画だ。


at 立川 CINEMA CITY

2008年4月26日 (土)

「つぐない」

Tsugunaiラヴ・ストーリーの名作か?オヤジも涙する悲恋物語。

 あちこちで高い評価を受けている作品でしたので、普段あまり触手の伸びない恋愛物語ですが見てきました。 大正解でした!

 基本のプロットは、深く愛し合う若き男女のかなわぬ悲恋物語なのですが、本が良くできているので全体の構成がとても骨太、そして、演出も極上です。


 第二次世界大戦前夜、舞台は夏の英国、物語好きの少女13歳のブライオニー(シアーシャ・ローナン)がたたくタイプライターのキー音に乗せた上品なBGとともに幕が開き、上流の暮らしぶりが披露されるかたちで、登場人物像などが描かれます。この冒頭は、お堅い文芸作品のニオイが強くて、ちょっと失敗だったかな?と思っていましたが、さにあらず、展開はどんどん深まっていきます。

 大学を卒業したばかりの美しい姉セシーリア=スー(キーラ・ナイトレイ)と、使用人の息子で一緒に育ったロビー(ジェームズ・マカヴォイ) は、身分を超え惹かれあっています。若い二人が次第に近づいていく様を、幼い妹ブライオニーが垣間見ることで、多感な少女がほのかに恋心を抱いていたロビーへの複雑な思いからくる思いこみと嘘により、悲劇へとつながっていきます。

 スーとロビーがぎこちなく、次第に深く近づいていく様子を、初めに妹の視線から描き、その後時間を戻し視点を変え、真実が描かれるという手法で、大人の世界と子供の価値観の差をうまく表現する演出が素晴らしいと思います。 二人のラヴシーンはエロチックですが非常に上品で、センスの良さを感じました。

 妹の証言によって濡れ衣を着せられ、罪人となったロビーは牢から出る代償として兵士になり、戦争が勃発したフランス戦線に送られ、姉スーは家を出てロンドンで看護婦として働いています。  戦時中ロンドン、二人のつかの間の再会シーンも美しく涙を誘います。 そして、二人への仕打ちの罪の重さに気づいた妹も、看護学生となって、負傷した兵士のいる病院で手伝いをしながら、相変わらず物語を書いていますが、さらっと語られるこのシーンに、後への複線も張られています。

 その後息をのむ映像が登場します。 敗走したイギリス軍が、ダンケルク海岸に集結し、「ダイナモ作戦」と名付けられた撤退を待つシーンですが、命からがらここにたどり着いたロビーと仲間2人が、丘の上から数十万人の人並みを見下ろし、「聖書みたいだ・・」とつぶやきますが、まさにスペクタクルな光景です。そこから数分間続く長回しの映像では、軍馬を射殺し、装甲車を破壊し、海を隔てた祖国に向きながら合唱する傷ついた兵士達など退却軍の現実が曇天のほの暗い色の映像で次々と描かれます。すごい! このあたりの映像作りが、単なる恋愛物語以上の深みを与えているのではと思います。

 そして、驚きのエンディング。 タイトルとなっている「つぐない」の意味と、それまで描かれてきたストーリーの重みにあらためて気づかされることになります。 作家となった老齢のブライオニーが語る言葉から、前半の悲劇に至るまでの演出法や、つかの間の逢瀬を過ごす二人への描写の必然にも納得がいきます。 

 是非ご覧になり、深い感動と余韻を味わってください。若き才能ジョー・ライト監督の力量が光る、素晴らしい作品、オススメです。


at TOHOシネマズららぽーと横浜

2008年4月19日 (土)

「The FEAST」

Feast_1_1b  B級ホラーのエッセンスを思いっきり詰め込み!驚愕?展開のスプラッター。

劇場ではあまり観ないB級ホラーを鑑賞してきました。かのマット・デイモンとベン・アフレックコンビ主催の新人発掘脚本コンテスト「プロジェクト・グリーンライト」から誕生した作品だそうです。

 90分に満たない短い作品でしたが、かなり楽しめました。当然グロあり、お色気あり、おバカネタありのこれぞB級というお手本のような出来だというのが総括(笑)です。 少し前に上映された、タランティーノとロドリゲスの企画モノ「プラネット・テラー」「デス・プルーフ」に勝るとも劣らないバカバカしさでお腹いっぱいになります。米国の"グラインドハウス"で観たら、大爆笑と指笛ヒューヒューの渦に巻き込まれるのではないかと想像してしまいました。

←オソロシげな姿が描かれたチラシ。果たして・・?

 冒頭、登場人物のキャラをシリアスなストップモーションで順に紹介していくのですが、その説明テロップにそいつらの寿命が書かれているのにいきなり笑わされます。英語力に乏しいので、字幕の説明を読むのですが、原文を理解できたらもっと笑えたかもしれません。 しかし十数人の登場人物のキャラとポジションを覚えるのは辛いな~と思っていると、いきなり数人がモンスターに食われてしまうので、全く心配無用でした。やられた(笑)

 普通のホラーでは餌食にならないとされているキャラクターが次々やられたり、次はこいつが死にそうだという所謂フラグの立ったやつが以外とがんばったりと、定説を覆す展開は痛快です。 一番可笑しいのが、でかくてヌメヌメでグロ、凶暴モンスターが、殺された我が子の代りを生み出すために"繁殖のための愛の行為"をしてしまうシーンです。(どひゃ~!!)  

 他にも、今流行り言葉でいうところの「ありえない!」展開の連続で、「既存のホラー映画に似てないものを作った」というふれ込みも、まんざら大袈裟でないかなと思います。

 当然、大多数のみなさんに受けるタイプの作品ではないのですが、映画のひとつの醍醐味を味あわせてくれますから、洒落のわかる方よろしければ・・というところですね。 

 念のため申し添えておきますが、ホラー映画なので、それなりに怖く、ドキドキします。コメディの笑いではありませんからお間違いなく。

 FEASTの意味を知らなくて後から調べたのですが、祝宴、 ごちそう、 楽しみという意味らしいです。なるほど・・!


at シアターN渋谷

2008年4月 7日 (月)

「バンテージ・ポイント」

綿密に練られた脚本に唸らされる、息をもつかせぬサスペンス&ノンストップアクション。

Poster1  上映時間90分と比較的短めの作品でしたが、120%楽しめました。黒沢明監督の「羅生門」のサスペンス手法をなぞったとの解説もありますが、哲学的表現があるわけではありません。

 合衆国大統領が、公衆の面前で狙撃され、尚かつ同じ現場で爆弾テロも起きるというというショッキングなシチュエーションを、関連した8人の登場人物の視点から映像化するという凝った手法で、まさしく映画の醍醐味を堪能させてくれました。 

 初めに、群衆の前で演説する大統領の姿を中継するTVクルーが登場、その生中継の最中に事件が起きます。そのTV中継クルーの映像配信の様子が、作品のその後の映像作りをナビゲートするがごとく象徴しています。 続いて主役のデニス・クェイド演ずるシークレットサービス"バーンズ"の、早朝の場面から、爆発後までが描かれますが、その朝の場面に戻るまでの時間を逆行させるのに、ビデオテープをキュルキュルっと巻き戻すかのような映像で見せてくれます。 大統領狙撃と、大爆発シーンとその後少しだけ進展する展開・・そこからまた次の登場人物のパートへと移ってゆく際にもやはりキュルキュル戻りが繰り返されます。(その度に大統領は撃たれ、爆発が起きるのですが・・。) 

 ん!また戻るの?と、何度も思いつつ見進んでいると、その都度最後に少し新たな展開が入ってきて、真実に近づいてゆくという手法も、小憎らしいくらい計算されています。

 フォレスト・ウィテカー演ずる旅行者が持っているハンディビデオが犯人捜しの道具になったり、バーンズが、TV中継車の放送用ビデオテープから真犯人を見つけ出したりと、映画全体の作りに、時間を逆行して映像を再現できるビデオの特徴をうまくリンクさせているなと感じました。

 この作品のおもしろさを文章で伝えるには、私の作文力はあまりに拙いので、是非劇場でご覧になることをお勧めします。 後半のカーアクションも上級ですし、8つのパートが最後にリンクして、なるほどと納得することで、そこまでのストーリーが、とても綿密に創られていたことに感心させられると思います。脚本の勝利というところでしょうか?

  少しだけ(?)が浮かんだのは、今どきの映画にしては、米国大統領の描き方が好意的過ぎるかなという点ですが、自分の身を挺して最高権力者の警護をする役目のシークレットサービスの活躍には、大統領をそれなりの人物に描かねばならない宿命があるタイプの作品なので割引きを差し上げなくてはいけないですね。

 犯人達の思想信条や、国籍・セクトなど説明的な部分はありませんので、政治的な側面はほとんどない純粋な娯楽作品です。 DVD化されたら、ストップやスロー再生を駆使して、意地悪く細かい点まで何度もチェックしながら見てみたいです(笑)


at MOVIX橋本

2008年3月30日 (日)

「ダージリン急行」

The_darjeeling_limited くすくす笑って、じんわり癒されるゆる~いロードムービー

 結構お気に入りのくせ者監督"ウェス・アンダーソン"作品を観てきました。はじめに「ホテル・シュバリエ」という短編が上映されます。本編に関わる男女二人が描かれる、それだけでは、そのポジションがよくわからない作品ですが、本編でなるほど!と理解させてくれます。楊枝をくわえたショートカットの"はすっぱ"ナタリー・ポートマンのヌードが綺麗です。

 本編の主役は男三兄弟、父の死後、絶縁状態にあった関係を修復するために、長兄の誘いでインド旅行が始まります。ストーリーが進んでも、絶縁に至った理由や、兄弟の過去などに触れる説明的な部分はほとんどなく、観客は兄弟同士の会話にその糸口を探さねばなりません。 ?を頭に浮かべたまま、「兄弟の結束を取り戻そう!!」と、大まじめに旅を続ける彼らに付き合い、その"おまぬけ"ぶりにくすくす笑わされます。結局、兄弟の心のもつれた糸は簡単にはほどけず、旅は終わりになってしまうと思われるのですが、後半の重要なエピソードによって思わぬ展開を見せ、味のある終盤へ続いていきます。 

 ゆるーい作りの映像を見ているうちに、いつの間にか作品の世界に引き込まれ、見終わったあと不思議な爽快感に満たされました。怒り、驚き、悲しみ、そして感動など心が揺さぶられるというタイプの作品ではありませんが、しみじみいい作品だなぁ~というのが感想です。 75点を差し上げましょう。
ただ、こういう作品がまったくだめな人もたくさんいるだろうなとも思いましたが。

 ビジュアル的には、輝く陽光と、至る所で目にする鮮やかな色彩がインド独特の雰囲気演出するのにとても効果的で、70'sを中心としたポップ・ロックと印度音楽がサウンドトラックに多く使われているのも、映像とよくマッチしていて気持ちよかったです。

 三兄弟のキャラクターがそれぞれとても“濃い”のですが、なかでも「戦場のピアニスト」エイドリアン・ブロディの悲しげな"ハの字"眉毛のオトボケぶりにヤラれました(笑)


at 立川 CINEMA CITY

2008年3月 7日 (金)

「君のためなら千回でも」

1000 とても、心に浸みる作品でした。 原題は「The KiteRunnner」というそうですが、物語の中で語られる言葉「君のためなら千回でも」が、日本公開でのタイトルに使われています。 

 70年代のアフガニスタン 平和で活気のあるカブールの風景が活き活きと再現されていることに、冒頭から心をわしづかみにされます。 そして、それに華を添えるCGを駆使したと思われる凧合戦を追ったアクロバチックなカメラワークは、テクノロジーの上品な使い方として秀逸だと思います。 そして、後半ソ連侵攻後の、荒廃した町並みをリアルな対比をもって見せるチカラは「さすがアメリカ映画!」と唸らされるところです。

 ストーリーの本筋は、主人公が過去の過ちに対する贖罪がテーマに据えられていると感じましたが、そこに至るすべてのエピソードが、丹念に作り込まれていて、誰でも心に思い当たるであろう、自分の犯した過去の過ちへ「許し」を願う心の琴線に触れる作品になっていると思います。 そして、生まれや民族問題、時代と政治や社会情勢に翻弄された2人の少年の、それぞれの立場と友情を軸に、人が持つ様々な要素も描き出され、人間ドラマとしての深みが見て取れます。  
 
 メインの少年二人も勿論ですが、主人公アミールの父親がとても魅力溢れる人物として描かれていて、とても素敵でした。 そして、アミールに強い影響を与えた、父親の友人
ラヒム・ハーンも同様です。 この頃の男達は、かっこよかったんですね。

 是非もう一度、しっかり観てみたい作品となりました。 90点差し上げたいです。

 余談ですが、作品鑑賞中の劇場で、今時には珍しく、電気系統のトラブルで上映が中断してしまうハプニングに見まわれました。ストーリーの終盤、やや手に汗握るシーンの最中だったので、ちょっと残念なことでしたが、帰りにゴメンナサイ招待券をもらったので、少し許してあげることにしました(笑)


at 立川 CINEMA CITY

2008年2月 9日 (土)

「ヒトラーの贋札」「勇者達の戦場」

Photo_2  1月の後半、正月の代休が何日か取れたので、映画のはしごをしてきました。 


 今年最初は「ヒトラーの贋札」。 第2次大戦中、ナチに強制収容されたユダヤ人の中から、“ベルンハルト作戦”と名付けられた敵国紙幣の偽造作戦に従事させられた人々の物語です。

 ナチの残虐非道については語るまでもありませんが、この作品はそれらの描写を控えめにし、偽札作りに関わった人々がおかれた状況と心理がメインになっていることで、サスペンス調の娯楽作品として楽しませてもらいました。

 主人公の、紙幣を含む公文書偽造のプロ(勿論犯罪者)"サロモン・ソロヴィッチ"は、自分と、関わった周りの仲間の命を長らえるためナチに協力し偽札作りに取り組んでいきます。 一方原作の著者でもあり印刷技術者の"アドルフ・ブルガー"は、ナチの作戦に荷担することで戦争をドイツ有利に導き、ユダヤ人の立場をますます危うくすると考え、偽札作りをサボタージュします。 そして、完成を急ぐ責任将校"ヘルツォーク"は、偽ドルの完成か、仲間の命か選択するよう迫ります。 自分の命と仲間の命、もっと大所からの戦争と同胞への正義感、どちらがより尊いかを語るのは無意味だと思いますが、人にとっての究極の選択ともいえるこの状況が緊迫感を生んでいます。  作業に関わったユダヤ人達それぞれの立場での人間描写、ナチ将校の意外な紳士ぶりなど、細かいところも良く描かれていて、また、戦争を背景に作られた映画にしては銃撃戦は一度も登場しません。(多分)  強制収容され虐待されたユダヤ人と、作戦に関わったメンバーとの扱いのギャップを対比するため、冒頭サロモンが一般収容されていたときと、終戦時に解放された囚人の様を描くことで状況を再確認させられますが、 全体に残虐さを抑えめにしたことで、悲惨なイメージで覆われなかったところが良かったと思います。

現代の偽札と言えば、某社会主義独裁国の公共事業「スーパーK」が思い浮かびますが、米ドルというのはそんなに簡単に偽造されてしまうものなのでしょうか・・??

at 日比谷 シャンテ・シネ

Home_of_the_brave_3 午後2本目に突入、こちらは今のアメリカが直面している戦いをテーマにした「勇者達の戦場」。 原題は“Home of the brave”「勇者の家」とでもなるのでしょうか? イラクに派遣された兵士達の帰還後を描いた所謂社会派の作品です。 今も活動を続けているイラク戦争後の治安維持部隊が戦闘に巻き込まれ、心身ともに傷つき帰国するところから物語は始まり、そのメンバー数人の帰国後の苦しみを辿ってゆく手法で、アメリカが抱える闇の一端をあぶり出していきます。 

 自由と正義の名の下に世界中に軍隊を派遣し、その掲げる理想を犯すもの達を敵と見なし戦いを挑み続ける・・「覇権国家アメリカ」。  正義の戦いを続けるには、戦場に赴く兵隊が必要であり、そこには生身の身体と心を持った人間がいることにあらためて目を向けさせられます。 そして、そこで戦った者達が傷を負った心と身体のまま平和な母国に戻ると、そこにはもう一つの戦場があった・・なかなかうまいタイトル訳ではないでしょうか。 夕食時にダイニングのTVで毎日の流されるイラク情勢を、遠い地球の裏側の出来事としか捉えられない平和慣れした「普通の人たち」と、極限の体験をして戻った兵士達とのあまりのギャップが、リアリティをもって迫ってきます。 主な登場人物4名が各々違った苦しみを抱え、苦悩する様の演出・演技は共に素晴らしいと思いました。  物語の半ば、セラピーに参加したメインキャラのひとり"ジャマール"が、同席した熟年男に「どこで戦ったんだ?」と聞くと、「ベトナム」と答えるシーンがありますが、このテーマは30年以上かかっても解決できない深い闇なんだと言うことを思い知らされるシーンです。 このあたりをエンタメに味付けすると「ランボー」になるのでしょうか?

 冷戦後の新たな敵イスラム原理主義過激組織を相手取り、自由と正義の旗のもと「テロとの戦い」を続けるアメリカ。 本作品で描かれたような犠牲者達を次々に自身の国内に生み続けなくてはならない負の現実と、政策決定に大きな影響力を持つといわれる「産軍複合体」の利益構造の現実、どちらも現代アメリカのリアリティなのでしょう。

at 銀座シネパトス
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