財政破綻に備える
財務省の矢野康治次官が月刊誌「文芸春秋」に寄稿し、最近の国会での政策論争を「バラマキ合戦」と指摘したことで、物議を醸しています。確かに、月曜日から開かれている国会で、総理大臣の所信表明演説や、それに対する政党の代表質問でも、コロナパンデミックで痛んだ国民の生活や、経済を建て直す目的での補助金や支援金、行政の拡充などがいろいろ並べられ、これからのコスト増と、政策実行に伴う財政への圧迫が強くなるのは間違いなさそうです。財政当局を代表するトップとして、省内きっての財政再建論者と言われる次官が黙っていられなかったのだろうというのも、国民の一人としては理解はできます。
既に1200兆円超の借金がある日本国政府ですが、将来に向け財政破綻危機にあるのか、その懸念はないのか、対立する両方の意見があります。財務省は勿論、伝統的経済学の立場をとる学者には、このままの財政運営では破綻は避けられないとする意見のひとが多いようです。一方、不足分は国債増発でまかなえる。借金も多いが、政府には資産も多いのでまだ余力は十分にある等の理由で、破綻の懸念は無いとする立場を取るアナリストや学者もいます。また、最近では、MMTという理論を根拠に、デフレ下であれば、財政赤字に制約はなく問題ないとする説もあります。それぞれの考え方や根拠は、ネット上の記事にも沢山有りますので、ご興味のある方は検索してご覧になってください。このニュースが流れた途端に、例えばYahooニュースのコメント欄などには、破綻を否定し、矢野次官の態度を批判する意見が山のように書き込まれました。多くは、財務省指導の緊縮財政が日本の経済成長の足を引っ張り、デフレ解消を阻害してきたと主張するもののようです。また、政治家のなかからも、次官の態度がけしからんとする発言が出ているようですが、否定するのであれば、国民に選ばれた代表として論理的な反論を聴きたいところです。
私には、今の時点でどちらの説が正しいかは解りません。また、為政者ではありませんので、どちらを信じるか立場を決め、表明するる必要も無いと考えます。おそらく、当分財政赤字は積み上がるでしょうから、何年か後にははっきりするのではないでしょうか。破綻しない説が正しいのなら何の問題もないのでハッピーです。少なくとも、コロナパンデミック前までの経済に回復してくれるなら、今の人生設計を変えること無く、間もなくやってくるリタイア人生を楽しむこともできるでしょう。もし、破綻があり得るのなら、想定される事態を想定して、個人として何らかの対策を立てるべきだと思います。予想できる最悪の事態を想定して対応する、所謂マクシミン戦略という考え方に沿った行動を模索すべきと考えています。
財政破綻は、私たちの生活にどんな影響があるのでしょうか。次の3つの事象が起きるとされています。1)金利の上昇 2)通貨安 3)インフレ です。
市民の暮らしが影響を受ける例としては、1)の金利上昇が起きると、変動金利で借りているローンの返済負担などが大きくなり、家計を圧迫するでしょう。2)通貨安が進むと、消費財の多くを輸入に頼っている日本は、調達コストの上昇から物価が上がり、やはり家計を圧迫するでしょう。3)インフレが進むと、家計における消費支出が大きくなりますので、特に、労働市場から切り離され、年金収入を基盤にしている高齢者などの生活を最も直撃するなどが考えられるでしょう。
そして、金利の上昇、通貨安、インフレ、これらが順番に起きては繰り返す、所謂負のスパイラルに陥ることで、ハイパーインフレと呼ばれる物価の暴騰に至るとされています。要するに、財政破綻とは、多くの一般国民にとっては身近な家計の問題なのです。
あまり考えたくはありませんが、例えば数年の間に物価が2~3倍(少なめに見積もっています)になるインフレが起きたとしましょう。公的年金はマクロ経済スライドという仕組みを採用しているので、インフレ局面でも支給額は連動されますから、ある程度の安心はあるでしょう。(急激なインフレには追いつかない可能性もあります)一方、保有や運用している個人の金融資産は、価値が1/2~1/3に縮小してしまうことになります。ハイパーインフレが長期間続くことは考えられませんが、年金収入の購買力を大きく超えるような物価上昇が起きれば、その間は資産を取り崩す必要が生じ、残高を大きく減らしてしまう可能性があります。富豪、大金持ちの方々には問題ないでしょうが、多くの国民にとって、現役の頃に頑張って貯めた老後用の資産。十分だったはずの額が、一気に減ってしまったらどうでしょうか。座していては、悲惨な生活状態に陥るのは間違いありません。何か対策を立てるべきなのは明らかではないでしょうか。
国家の財政破綻に至るシナリオは、第一段階)国債価格が下落し金利が上昇する。第二段階)円安とインフレが進行し、金融危機が起き、国家債務の王膨張に歯止めがきかなくなる 第三段階)日本国が国債のデフォルトを宣言し、IMF管理下に入る。 という道筋を辿るそうです。
最終段階に入ると、政府による預金封鎖や通貨切り替えによってタンス預金を差し押さえるといった荒技も想定されます。(戦後実際に行われたことのようです)私有財産権は憲法で保障されているので、実施されるかは解りません。さすがにここまでの事態になってしまうと、個人レベルで対応できることは限られてしまうでしょうが、局地的に起きる自然災害などと異なり、国民全員が被る被害なので、誰かに助けを求めることもできませんから、自分自身で対処する以外にありません。
それでも、現代の高度でグローバルな商品・金融市場、情報社会に於いては、各種のメディアなどを通じて、自分の資産を防衛する手立てが見つかるでしょう。お金に余裕がある方は、個人的にファイナンシャルプランナーなどを、顧問として雇うこともできるかもしれません。
矢野次官の訴えの裏に、財政赤字解消のための増税への布石があるとするなら反対です。バラマキと言うなら、特別会計を含む財政支出の無駄にメスを入れ、且つ、複雑で歪んだ税の仕組みをあらためるべきと考えています。(意思も、能力も無いと思いますが。)一方、破綻が起きうることであるという説が一定の割合であるとするなら、楽観論を信じて何もしないという生き方を選ぶ勇気は私にはありませんので、何らかの行動を起こすと思います。合理的な考え方があれば、リスクはヘッジできるでしょうから。
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