「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」
アカデミー主演男優賞ダニエル・デイ=ルイスが演じた主人公は噂どおり凄かった。
後味の悪い映画です・・などと書き始めると誤解されるかもしれませんが、主人公「ダニエル・プレインヴュー」の半生を延々と綴るこの長い作品を見終えて爽快な気分になれる方は、相当屈折した人生を送っていらっしゃるとしか思えません(笑)・・・ が、2時間半以上、最後までスクリーンに釘付けになりました。
100年前のアメリカ、一攫千金を望み、金の採掘から石油堀へと転身し、己の欲望と野心のためには非道もいとわない男の半生に共感を持つことは、現代の日本で普通の社会生活を営むヒトビトにはかなり難しいでしょうから、初め観客はかなり距離を置いて見ざるを得ないと思います。眉間にシワを寄せながら・・。 しかし、彼の生き様に象徴される強欲や人間不信などは、ほぼすべての人が持つ影の部分でもあるので、結局はどこかで受け入れざるを得ないのかも知れません。
ストーリーの前半では、まだ人間味を見せるときもあるダニエルですが、天敵とも見て取れるカルト的な宣教師イーライ・サンデー(ポール・ダノ)との確執も相まって、中盤以降の欲にまみれたいやらしさぶりには参ります。いやはやすごいとしか形容しようがありません。「ギャング・オブ・ニューヨーク」での悪党ぶりも見事でしたが、更に凄味を増しているようです。
"There will be blood" とは、"そこに血があるでしょう"=・・みたいな訳になるのでしょうか? 血とは勿論血縁の意味もあるでしょうし、あるいは現代文明の血液「油」の意もあるのかもしれません。 血の繋がりのない息子H.W.、途中で現れるダニエルの弟になりすました男、彼らへ扱いからもタイトルの裏側が透けて見えるようです。
舞台はほとんどがアメリカの荒野で、乾いた岩と砂ばかりの風景にもかかわらず、映像はとても美しくつくられています。上のチラシの背景にもある、油井が炎を上げて夕暮れの空を焦がすがごとく燃えさかるシーンなどは、その真骨頂です。 また、全編に流れる呪術的な響きを持ち、不安をかき立てるような音楽も、作品テーマととてもマッチしていますのでこちらも注目です。
最終盤は、財をなしたダニエルの邸宅内での出来事で締めくくられますが、エンディングのために用意された豪奢で洗練された美しい舞台と、最後の恐怖との対比がお見事です。
あ~胸くそ悪いが、すごい映画だ。
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