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2025年8月 9日 (土)

閉店3ヶ月

風林堂のお店を閉じ、ほぼ同時期、お取引くださった主立った事業者さまとのビジネスも無くなり、仕事量がかなり減ってからおよそ三ヵ月が過ぎました。それまでは、週に5日以上おせんべいを製造し、6日間店を開け、まとまった休みは8月と1月の末に少しだけ頂戴し、多くの小規模事業者がそうであるように、休日にも半分くらいは仕事に割くことが多く、言わば●●暇無し生活を長く続けてきました。生活がほぼ仕事中心に回っていたといっても過言ではありません。現役の皆さん同じと思いますが、朝になると(夜の方もいるでしょうけど)その日の仕事スケジュールに沿って動き始め、合間に仕事以外の身体や生活の維持に必要な事柄をこなし、自由になる時間にはたまに息抜きをしてという生活パターンを長く続けてきました。そんな毎日が、4月30日に終わり、5月以降、製造に携わるのが週に2~3日。残りは、比較的自由に時間を使えるようになりました。

定年退職された皆様も同様かと思いますが、仕事の無い一日というのは、自由なようでなかなか戸惑いの多い日々です。休まず働いていた頃には、もっと休みがあったら、あれもこれも出来るのに・・と望んでいたはずなので、その渇望感は意外にも少なく、少し持て余す時間が増えてしまい、貴重な時間を、何だか無駄にしているのではないかと焦る気持ちも起っています。幸い、好きな映画を見て、同好の士と談義を交したり、写真撮影に行って、SNSやブログで公開し、感想を頂戴したりというのは楽しく、生活のアクセントになっているのは間違いなところです。ただ、それらを仕事の代わりに打ち込めるかというと、なかなかそうはいかないのが現実です。今年末から来年にかけて、完全リタイアの計画もあり、それまでにもう少しポジティブな毎日が送れるよう、何か考えていくのが吉かと思っているところです。

私は、父が創業したおせんべい屋の後継になると早い時期に決めていましたので、大学卒業時の就活苦労を知らず、組織で働く多くの皆様と違って、人間関係で悩むことも少なく、取り組むべき仕事の目標が定まっていましたので、恵まれた仕事生活だったと振り返っています。昭和の後半、日本のGDP(当時の指標はGNP)は世界2位で、『ジャパンアズナンバーワン』がベストセラーになった時代。日本全体に勢いがあり、やがて「24時間働けますか」がもてはやされることになるバブル景気前夜で、求人倍率が高く、学生にとっては「売り手市場」でしたから、多くの若者が、とりあえず大学卒の肩書きがあれば、就職はでできた時期だったかと思います。そんな時代の空気もあり、私自身ものんびりして自由な学生生活を送り、得がたい経験も出来たことに感謝するのですが、勿論そんな時代に合っても、取組みや意識によって成果や結果に差が付くのは当然で、リタイア時期になった今となって、実感を持って受け止められるところです。私自身も、稚拙ではあったでしょうが、自己研鑽は怠らなかったと多少の自負は持っています。

社会人として組織に属し競争社会を生き抜いてきたた皆さんには、新卒時やその後の仕事に於いて、自分自身の強みとその根拠、会社への貢献能力などを顧みたり分析したりする必要があったかと思いますが、自己分析に取り組む機会が少なかった自分には、アピールできるどのようなアドバンテージがあるのだろうかと振り返ってみたとき、いささか寂しい思いがあります。基本文系なので、中高生時代に、国語や社会科はずっと高得点を取ってきましたが、特に高校以後の理数は及第点を取るのがやっと。大学は勿論文系学部を選択しましたので、現代社会に求められる理数スキルには、ほぼ到達しないだろうと思います。一方、こうして雑文を書いたり、本や映画の感想文を書くのは好きですし、趣味の写真撮影は、中級の上くらいまでは進歩した手応えは感じています。ただ、これら好きなことがマネタライズに繋がるかというと、おそらくノーだと思います。このような分野では、特に秀でた一部の人だけが成功できる言わば狭き門を通り抜ける能力と運が必要。そういう一か八かに人生を賭ける選択はなかなかできません。

一方、会社業務各所に目配りしながらの舵取り、少しの個性を発揮して市場にポジションを得ていくというような、小規模企業経営者として最低必要な能力はあったかもしれませんんが、会社をどんどん成長させるほどの能力には乏しく、またそのような道を選ぶというのも性に合っていなかったような気もします。もしかしたら、経営者より専門職に向いていたのかも知れません。また、企業経営者に求められる資質として、かつて。1990年代初めくらいまでは、アイデアを生み出すことができる経営者(または経営陣)が優れているとされていましたが、今では、そのような人材をマネジメントできることが最も求められる資質だと聞いたことがあります。そのような視線からは、私は過去タイプの経営者だと思いました。

このように、言わば、器用貧乏で大した取柄も無い私が、曲がりなりにも30年以上会社を維持できたのは、唯一「目標達成能力」を備えていたからではないかと思っているところです。カッコ良く言うと「Grit(グリット)」でしょうか。アメリカの学者が提唱した概念で、「やり抜く力」と訳されます。これは単なる粘り強さだけでなく、情熱(Passion)と粘り強さ(Perseverance)の両方を合わせたものと言われています。この概念を知ったとき、もしかしたら自分にも少し備わった力なのかもと意識したのを覚えています。昭和以前の日本で主流だった、精神論に基にする、嫌いなことでも「歯を食いしばって頑張る根性」とは異なり、自分の好きな分野で興味を失わず、目標達成に向け努力し続ける力だそうです。短期的長期的な目標を立て、その達成のために、状況分析と道筋の設定。必要なリソースの調達。個人事業主や小規模企業に最低限必要な能力ではないかと思いますが、それを仕方なしに取り組むか、前向きに取り組むかでは、モチベーションの量が変わると思います。これまでの道のりでは、大きな危機に直面したことが何度かありました。父の代の資産や家族の助けはありましたが、その都度自分なりに努力して乗り越えられたのは、この力のおかげだったのかも知れません。

現役で就業していたころは、楽しいよりどちらかというと辛さの記憶が多いと振り返っていますが、投じた努力が結果として見えやすく、やりがいがあったことは間違いありません。それは何より幸福だったと思っています。長い間寄り添い伴走してくれた妻にも感謝は大きく、やっと少しゆっくりして貰えることで、多少はお返しが出来るかとも思います。シンガーソングライター、イルカによると、人生をフルコースとすると、60歳以降はデザート世代と呼ぶのが良いとか。頑張ってきたご褒美の時間を、少しだけ楽しめればと願います。心身健康なうちに。

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