今年のアカデミー作品賞含む最多8部門を受賞した作品。 既に評価の定まった作品なので、その魅力を伝える言葉は、既に語り尽くされていると思うが、確かにオスカーの名に恥じない素晴らしいエンターテインメント作品だと思う。 インド・ムンバイ、スラム出身の若者が織りなす極上の青春ラブストーリーだ。
おなじみのクイズショーを題材に、主人公が発する答えと、警察署での尋問、そして彼の人生をシンクロさせて見せるという構成は原作の手法だというが、ダニー・ボイル監督の手による巧みな映像化によって、見事に大成功していると思う。
現代日本のフツー階層に暮らす我々には想像することさえさえ難しい、インドの貧困の現実と、その底辺で生き抜いてきた、主人公と兄の生い立ちが描かれる前半シー
ンのスピード感とダイナミックさには圧倒される。 あるときは警備員やギャングに追われ、スラムを走り回り、また、母親の死後孤児となった彼らが、旅客列車を生きる糧としたり、インチキ観光ガイドになったりと、自分自身の機知のみを頼りにたくましく生き続けるジャマールとサリーム。 悲惨な境遇とは裏腹に、生命力に溢れ、屈託無く笑って過ごす彼らがたまらなく魅力的だ。 そして、彼らと同じ境遇の子供達を食い物にする、醜い大人の存在。 アジアの影の部分にも切り
込んで見せる。
後半では、青年になり違う道を歩み始め、対照的な生き方を選ぶ兄弟の姿、高層ビル群が林立し、西欧の夜間コールセンターと化している、IT先進国インドの今、そして、ジャマールの明晰さと、ラティカへの変わらぬ純愛が披露される。 そして、スリリングなクライマックス。
想像してみよう。 例えば、舞台を別の国に設定しても、物語の幹「恵まれない生い立ちにもかかわらず、困難に打ち勝ち、成功を手にする主人公の生き様。」
は、形を変えて成立するかもしれない。 しかし、彼がクイズの答えを知り得た背景描写、そして何より、作品全体が醸し出す、めまいのするようなライヴ感、 万華鏡を覗くような不思議感は、ダイナミックに変容しているインドの「今」でなければ描けなかっただろう。 大団円のエンディングダンスシーンを含め、最後までインドの懐の深さを体感できる、満足度100%のオススメ作品だ。
最後に一点、もし本作がオスカー受賞作でなかったら、日本で大きい注目を集めたか
どうか、あるいは公開されたかどうかさえ、懐疑的な印象も持った。 決して華がある作品という訳ではない、出演者にビッグネームのひとつもない、SFXもない、し
かし、映画の楽しみが凝縮されたこの作品の冠無しでのヒットがあり得たか・・。 GW最終日のシネコン、満席のシアターでの鑑賞後、少し考えを巡らせながらの家路だった。
2009/5/6 TOHOシネマズ海老名にて