なんちゃって映画感想文 Feed

2016年1月11日 (月)

2015年の映画

昨年大晦日にもごちゃごちゃ書きましたが、2015年は、通年忙しく過ごしてきました。製造販売する小規模企業の宿命で、忙しいと製造現場に張り付くことになり、事務仕事や、個人的にこなさなければいけない雑事を、お休みの日に充てるという循環となります。当然、「余暇」が削られることになります。というわけで、昨年は映画館通いも、ぐっと少なくなり、数えてみると月に2本ペース。最も通っていたころと比べると、半分弱になってしまいました。

見逃して、凄く後悔している作品も多く、そういった作品は、得てして、後になってもメディア販売が見送られたり、配信されそうにないものが多いので、道楽とはいえ、若干のストレスになりますね。

以下、劇場鑑賞した作品の一覧です。

サンバ フランス
アメリカン・スナイパー アメリカ
フォックスキャッチャー アメリカ
アメリカン・ドリーマー 理想の代償 アメリカ
わたしに会うまでの1600キロ アメリカ
バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡) アメリカ
パレードへようこそ イギリス
セッション アメリカ
龍三と七人の子分たち 日本
ゼロの未来 イギリス・フランス・ルーマニア
マッドマックス 怒りのデス・ロード アメリカ
アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン アメリカ
ターミネーター:新起動/ジェニシス アメリカ
おみおくりの作法 イギリス・イタリア
ヴィンセントが教えてくれたこと アメリカ
パパが遺した物語 アメリカ
チャイルド44 森に消えた子供たち アメリカ
人生スイッチ アルゼンチン・スペイン
キングスマン イギリス
ミケランジェロ・プロジェクト アメリカ
エベレスト 3D アメリカ・イギリス
シャーリー&ヒンダ ウォール街を出禁になった2人 ノルウェー・デンマーク・イタリア
ハッピーエンドの選び方 イスラエル
1001グラム ハカリしれない愛のこと ノルウェー ドイツ フランス

面白かったと思える作品をいくつか揚げてみます。

●フォックス・キャッチャー / あまり話題にならず、興行的にも成功したとは言えないかもしれません。当然で、実際に起きた殺人事件を描いた、とても重苦しい作品で、決して楽しくはありません。しかし、主役3人を演じた俳優の役作りがすばらしく、事件を知らなかった私には、まるでドキュメンタリーのように見られました。何とも収まりの悪いというか、もやもやした雰囲気が好みです。

●アメリカン・ドリーマー 理想の代償 / こちらも、あまり話題にはならず、ひっそり始まりひっそり終った感じ。80年代のアメリカ、オイルビジネスに携わる、移民で野心家の若き起業家夫婦の挑戦と苦難が描かれます。新作スターウォーズ、X-Wingの辣腕パイロットを演じている、オスカー・アイザックと、大物女優の風格ジェシカ・チャステインが夫婦役。経営者の死活と、ビジネスの裏側がテーマで、私にはシンパシー大でした。

●わたしに会うまでの1600キロ / 大好きな、フォックス・サーチライト・ピクチャーズの制作。人生再出発のため、1600キロに及ぶパシフィッククレストレイルを踏破した女性の自叙伝を映画化した作品。手つかずの自然の脅威に身を置き、孤独に耐え、ひたすら自分とだけ対話していく長い旅。都市生活をしているとおよそ考えられない、人の声を何日も聞かないというシチュエーションは、以前少しだけかじった、単独の山歩きを思い起こして、共感しました。

続きは次回に。

2014年6月29日 (日)

映画感想文「ぼくたちの家族」

Photo_2 久しぶりに、映画の感想文など。邦画は年に1~2本しか見ませんが、石井監督は、新作が掛かれば見たいと思う、数少ない日本人監督です。


 石井裕也監督が描く家族の風景が好きだ。日本アカデミー賞の作品賞を受賞した前作を見ていないので、それより前の少しマイナーな香りのする作品と対比することになるけれど、初期作品の、ビッグネーム役者をほとんど使わずに、実に味わい深い等身大日本人を描くスタイルとセンスは、今回も少しも変わらず発揮され、期待を裏切られなかった。 物語の舞台設定や、登場人物像の演出などが、どこにでもいる感、近親感に溢れていて、随所で深い共感を抱かせるところは小憎らしいくらいだ。

  首都圏から離れた地方都市に住む若菜夫妻の年齢は50歳代後半といった設定だろうか。既に結婚して家庭を持った長男夫婦が、第1子を授かったというめでたいエポックに前後して、妻に異変が起きる。あろうことか、妻であり母である家族唯一の女が、いきなり余命1週間の宣告を受けるというせっぱ詰まった状況に陥るのだ。いい歳してあまり頼りにならない父、かつて引きこもっていたというちょっと気弱だが頑張りやの長男、調子が良いが、やたらに現実的な大学生の次男という男三人と、脳障害のせいで、やけに子供っぽく純になっていく母。四人の数日間を描く中で、崩壊間際だった家族のかたちがどのように変化していくのかを、とても暖かい目線で見つめていく。

 舞台設定や人物の演出がスーパー平凡且つリアルに徹しているから、観客の目には自身の状況や感情が重なるところが必ずあるはずだ。どの人物に共感するか。自分自身を投影するのか。あるいは半歩引いて、隣人のような目線で見守って行くのか。感じ方味わい方は性別や年齢によって人それぞれだと思うが、この若菜家の姿は、戦後から高度成長、そしてバブル経済の時代に上ばかりを見ていた昭和家族像とはひと味違う、既に20年以上経過した平成日本の価値観や現実がとても上手に投影されているという点で観客全員に異存はあるまい。

  個人的に一番「やられた!」感を強く持ったのが、入院中の母玲子が他の家族三人を前にして、心情を次男俊平に語り出すシークエンスだ。夫克明や長男浩介のことを見分けられなくなっていた玲子は、家庭を持ってから今までの心の内を家族の前でさらけだす。「お父さんと浩介がここにいないから言っちゃうけどね~」という言葉に続 いて語られる内容は、昭和~平成と時代に沿って生きた中流日本人の妻・母たちの公約数的な心情ではなかろうか。その言葉を前に、何も言わずにうつむく夫と長男の姿から漂ってくる、ある種の後ろめたさを嗅ぎ取ることは容易であろう。

 そして、 もう一組の夫婦、長男浩介と深雪。夫は、両親の家計が既に破綻している事実を身重の妻に打ち明ける。このときの若妻のリアクションと、その後の演出には舌 を巻いた。自らを「みゆき」と名前で呼ばせ、自己中心の小さな世界観を唯一絶対視している妻。一番大切な日は?と聞いたら、自分の誕生日と答えるタイプ じゃなかろうか。当然舅夫婦への援助を拒絶。その状況を受け入れざるを得なく、実家の危機との板挟みでもがく長男。これまた平成日本で家庭を持った男の立場と価値観とを見事に描いて見せる。あるあるある・・・と心の中でつぶやくことしきりである。

  後半は、危機に立ち向かい奮闘する息子二人を中心に語られる。家族の難病と同時に、家計の危機というこれまた現代的な難題を前して、一歩一歩前に進んでゆく様にも強く共感を抱く。困難を共有し、解決に向かって力を合わせる行為が、人と人の結束を強くするという解説は、社会心理学で取り上げられることが多いが、 この兄弟の頑張りはまさにそれ。物語の最初とは明らかに変わってきて、成長の跡が見て取れる兄弟。二人が終盤に向けて下して行くいくつかの決断と、それに伴う行動を、本人の口で語らせないスタイルも日本人男子のメンタリティーに配慮した演出であろう。 そして、困難克服の過程が、大人へ向かうときに通るべきイニシエーションだと考えれば、息子二人に加え、イマイチ大人になりきれていなかったような父親の、遅すぎる脱皮への機会だったと捉えられるかもしれない。

  玲子の手術後、待合いの通路で肩を組んで喜び合いすすり泣く父と息子を写すカメラは、最後まで彼らに近づかずに、やや引きの構図を保つ。仕事をなし終えた男の涙を、顔ごとクローズアップで撮るといった無粋を避けた演出が心憎い。嫁みゆきと姑が顔を合わせる大団円も、ことさら感動を強調することなくさらりと描く。後味の良さが際だつラストも秀逸である。次回作にも期待大。

2014/5/28 109シネマズグランベリーモールにて

2014年1月13日 (月)

輝け!2013年My鑑賞映画作品最優秀賞発表。

2013年はおかげさまで仕事が忙しく、お休み返上の日も多かった一年でした。故に、劇場に足を運ぶ回数が例年より少なく、鑑賞本数が31本という結果でした。是非と願いながら、見逃したものも多いのですが、後日ビデオ鑑賞ということ少ない私としては、作品に接する機会が失われてしまう可能性も大なので、同好の友人などにプッシュしてもらわないといけません。

さて、今年も少ない中からマイベストを勝手にセレクトしてみました。実は、ものすごい名画と思えたり、一生の宝と言えるような作品には巡り会わなかった一年なので、どちらかというと渋々とか、苦し紛れとかいう形容の似合うセレクトになってしまったのがやや残念です。今年に期待!

Photo● 金賞  ムーンライズ・キングダム =独特の世界を紡ぐ作家の作品 ほのぼの感がグー=

● 銀賞 イノセント・ガーデン =韓国人監督ハリウッド進出作オリジナルテイストのサスペンス=

● 銅賞 ペーパーボーイ 真夏の引力 =ちょっとエロチックで社会問題も少し=

● エンタメ賞  パシフィック・リム =痛快無比の怪獣映画=

● アクション賞  アイアンマン3 =大ヒットシリーズ、主人公のキャラが大好き=

● SF賞 LOOPER/ルーパー =タイムリープものとしてはかなりの良作=

● 次点 セブン・サイコパス 悪の法則 =どちらも犯罪ものですが、予想を覆す内容で面白かった!=


LOOPER/ルーパー (アメリカ)
人生、ブラボー! (カナダ)
東ベルリンから来た女 (ドイツ)
ムーンライズ・キングダム (アメリカ)
愛、アムール(オーストリア フランスドイツ) (オーストリア フランスドイツ)
ザ・マスター (アメリカ)
死霊のはらわた (アメリカ)
君と歩く世界 (フランス・ベルギー)
天使の分け前 (イギリス)
アイアンマン3 (アメリカ)
L.A.ギャング ストーリー (アメリカ)
モネ・ゲーム (イギリス アメリカ)
ポゼッション (アメリカ)
オブリビオン (アメリカ)
イノセント・ガーデン (イギリス アメリカ)
欲望のバージニア (アメリカ)
25年目の弦楽四重奏 (アメリカ)
飛びだす 悪魔のいけにえ レザーフェイス一家の逆襲 (アメリカ)
ペーパーボーイ 真夏の引力 (アメリカ)
パシフィック・リム (アメリカ)
ホワイトハウス・ダウン (アメリカ)
マン・オブ・スティール (アメリカ)
オン・ザ・ロード (ブラジル フランス イギリス アメリカ)
大統領の料理人 (フランス)
エリジウム (アメリカ)
凶悪 (日本)
ランナウェイ 逃亡者 (アメリカ)
トランス (イギリス)
死霊館 (アメリカ)
セブン・サイコパス (イギリス)
キャリー (アメリカ)
悪の法則 (アメリカ イギリス)

2013年8月13日 (火)

映画感想文「天使の分け前」

Photo_2社会派で名高いイギリス人のケン・ローチ監督は、労働者階級に属する者たちが直面するさまざまな社会問題をテーマに作品を送り出してきた。今回は、真っ正面から切り込むようなタイプではないけれど、コミカルなタッチの中にも、その変わらないスタンスは生きている。

  主人公はグラスゴーに住む若者ロビーと、彼を含む主な登場人物であるポスターの若者プラス1。 4人は、それぞれが問題を起こし、裁判所から社会奉仕を命 じられていて、その作業現場で知りあった者同士という関係だ。プラス1は、彼らの指導を担当する人の良いおじさんハリー。物語の背景には、常に右肩上がり で推移する、イギリスにおける失業者数増がある。率で言うと約8%。日本でも、若年層の非正規雇用増加と、それによる低所得者層の拡大が問題となっている が、イギリスの状況と重なる部分はあるのだろうか? 

 刑罰としての社会奉仕という制度は、まだ日本には無い。導入の是非については、全く の素人なので的確なことは述べられ無いけれど、今の日本の司法制度の枠だったら、例えば軽微な犯罪の場合、実刑プラス執行猶予数年、あるいはもう少し軽け れば保護観察処分なんてのが、デフォルトなんだろう。(間違っていたらごめんなさい) 海外では、発祥の英国を含め、欧米を中心に約30か国で採用されて いるとのこと。刑務所の過剰収容の緩和や、受刑者の社会復帰促進・再犯防止に効果があると言われているとか。どちらの制度と運用がより効果的なのかは解ら ないけれど、この映画から受ける印象は、そんなに悪くなさそうだ。

 いずれにせよ、こういった若者が存在する理由は、もはや固定化に留まら ず、拡大再生産されるようにさえななっているといわれるる経済的格差だ。80年代から90年代の保守党政権時代飛躍的に拡大し、その後も微増を続けている という。この作品の主人公ロビーも、周囲には常に諍いや暴力があり、それは長く親達の頃から続いているというのは、格差問題が世代を超えて連鎖しているこ とを表している。

 主人公ロビーには恋人がいて、物語が始まって間もなく男の子も生まれる。その娘の家族は富裕層であり、親からは結婚を反 対されているという設定も、いつか見たような階級社会の話しだ。ミドルとかアッパーとか、かつての英国独特の階級とはやや違うかもしれないけれど、平等で あったはずの社会と大多数を占めた中産階級はもはや過去のもの、現代社会ならではの新たな軋轢がリアルだ。 恋人のパパから、まとまった手切れ金を渡さ れ、娘と子供から離れるよう迫られ、一時くじけて身を引く覚悟をしそうになるあたりのナイーブさにはグッとくる。粗野だけど、とっても良いヤツなんだな。 あがいても抜け出せない無力感や、はけ口のない苛立ちなどを抱えて生きなければならない、底辺の若者像が見事に描かれている。

 本作はその ロビーが、心優しい指導官ハリーとの出逢いによって、 特異な才能を開花させ、一発逆転の人生にトライするというエンタメ色も強い内容だ。だから、後半は前半の痛さと打って変わり、ロードムービに、ちょっとし たコンゲームのテイストをブレンドしたような内容になってくる。古い蒸留所で発見された「幻のモルト」をめぐるすったもんだは、前半の痛みやリアリティー をひととき忘れさせてくれるし、ロビーら4人へしっかり感情移入させられた観客は、ドキドキハラハラをお腹いっぱい楽しめるだろう。見事目的を達成した帰 路、警官に呼び止められ、職質受けた後に起きるアクシデントには、場内全員から「あ!」という声があがりましたよ。ローチ監督お見事。

 タ イトル「天使の分け前」については、各所で解説されているからここでは触れない。そして、物語の終盤に、この上ない爽快感と暖かさををもたらしてくれる、 とてもウィットに富んだ別の使われかたは、是非ご覧になって感じていただきたい。加えて、もう一つの意味として暗示され向けられているのは、英国を含む市 場主義経済社会全体に対する、ケン・ローチ監督からのメッセージのように思える。 高級なモルトウィスキーに象徴される「富」。また、それを高値で取引き し、更には投資の材料にまでしてしまう富裕層の存在。このお酒の熟成過程で失われるという数パーセントを、この物語の主人公達を含む底辺の人々への「分け 前」にできる知恵があるんじゃないか・・というのものだが、いかがだろう?

2013年4月30日 (火)

映画感想文 アルゴ◆ARGO

堂々の第85回アカデミー賞作品賞受賞作品です。その栄誉に恥じないおもしろさでした。個人的に最も好きなジャンルの映画なので、昨秋の公開からすいぶん時間が経ってしまいましたが、載せて見たいと思います。


Argo 1979年に起きたイラン革命。冒頭で簡潔に説明される歴史と背景は、紀元前から続く大国ペルシャに対する、現代の覇権国家に関わりが上手にまとめ られていて、当時の状況に明るくない観客にとっても優しいレクチャーとなっている。ここで語れられる革命前後の状況は、一般によく知られているものだが、 実はこの裏にはもう少し複雑な分析がなされうることが専門家によって指摘されている。

 第二次大戦で疲弊した英国から、覇権を引き継いだ米 国。イランに於いては、モサデク政権転覆にみられる所謂「反共の汚い作戦」を展開し、その一貫としてパーレビ親米政権を支え続け影響力を保ち続けた。そん な状況の中、イラン国内の反米感情の高まりによりシャーが追放され、代わりに反米イスラム主義のホメイニが亡命先から凱旋して実現したのがイスラム革命だ とされているが、当時の状況を詳細に見ると、シャーを追い出してホメイニに権力を与える画策をした張本人は、アメリカだったのではないかという要素がある らしい。その影にはどのような意図があったのか、どんな力関係が影響を及ぼしたのか?いやはや小説も真っ青のストーリーだが、そのあたりの話は映画感想文 のあとにもう一度語ってみよう。

 2月に起こった革命からしばらくの後、11月にこの事件は起きた。学生を中心として、国民を苦しめ続け たかつての国王とその亡命を受け入れた米国の行為に憤った大衆が暴徒化し、大使館を占拠、長期に渡り軟禁し世界中を驚かせたのが、よく知られたイランアメ リカ大使館人質事件だ。本作は、その影で長期に渡って極秘にされてきたCIAの作戦を描いた、実話ベースの作品という位置づけだ。

 テヘ ランの大使館内に軟禁された、職員と警備の海兵隊員数十名の他に、極秘裏に脱出してカナダ大使の私邸にかくまわれた6名。見つかれば命の危険がある人々 を、身分偽装し脱出させようという作戦がモチーフになっている。作品タイトルの「ARGO」は、その偽装に使われた架空の映画タイトルだ。CIAの脱出 ミッションの専門家である、ベン・アフレック演ずるトニー・メンデスが主人公。協力者として登場する映画関係者、CIAの同僚や上司、果ては大統領から政 府のスタッフまでがすべて実名での登場というあたりは、さすがアメリカと思わせてくれる。

 中でも、ジョン・グッドマン演ずるジョン・チャ ンバーズは、劇中でも取り上げられているあの「猿の惑星」の特殊メイクで知られる人物。事前の宣伝コピーからは、この技術を駆使した作戦で、全く別人にな りすまして国外脱出するのかというまるで「スパイ大作戦」ばりの騙しテクを期待するような先入観を持ったが、実際に展開された作戦は全く別物だった。誤解 の無いように申し添えると、奇想天外さが少ないからがっかりではなく、リアリティー溢れる緊張感は、良い意味で期待を裏切られ、最後までスクリーンに釘付 けされる面白さだ。

 憎悪に燃え暴徒化して、制御不能となっている群衆にの中に取り残され、敵対国の囚われ人という立場になってしまった 者たちの状況は、実話に基づいているとはいえ、十二分にサスペンスだ。「外交関係に関するウィーン条約」など全く存ぜぬ大衆の発するアジテーションは、日 常彼らと接する機会の多かったはずの大使館職員とて恐怖だったろう。冒頭になされる状況説明と、押し寄せる群衆の映像でイランの人々の怒りがもはや沸騰点 を遙かに超えているのを見せられているから、映像を見ているだけの私達もにもその恐怖は伝播する。

 作品の構成という面に目を向ければ、 孤立無援で救援をひたすら待つ心細さ、いつばれるかも知れないという恐怖を押し殺して、平静を装いながらひたすら堪え忍ぶ現地の人々心理描写を陰とすれ ば、メンデスが力添えを依頼した、ハリウッドの映画関係者のノリは陽として描かれる。この絶妙の対比が、実話ベースのストーリーにエンタメ性を加えている ところだ。時代はスターウォーズが公開され、SFブームのまっただ中。どう見てもパクリじゃんと、突っ込みたくなるキャラクター達の登場や、脅しやすかし を駆使する業界特有の交渉シーンなどはいかにも西海岸的で、同じアメリカ人とはいえ、ラングレーの役人達とも全く違うところはちょっと笑える。

  作戦進行に平行して、6名プラスカナダ大使の揺れ動く心理描写も緩急を交えて冴える。終盤は息をもつかせぬ追い込みで、ぐっと力も入る。作戦中止の命令と メンデスの苦悩。空港での脱出に向けたクライマックス。機内に流れるアナウンスでリリースされる緊張と、押し寄せる感動。すべてが見応え十分。メンデスに まつわる後日談や、エンドロールまで楽しめる極上の社会派エンタメと言えよう。監督兼主演のアフレックあっぱれ!

 さて、冒頭に書いたイ ラン革命の裏に隠されたアメリカの意図とはいったい何か? 第二次大戦後、米国の軍事産業やマスコミをたきつけ、ソ連に対する脅威感を煽り、冷戦の構図を 作ったのは覇権から手を引いたかに見えた英国の暗躍だ。そしてソ連崩壊の後、対イスラム(テロリズム)という新たな対立構造を作りだし、軍産複合体を中心 に富を産む構図を創造するための戦略に沿ったものだったのだ。 さて、最近再選されたリベラルの象徴オバマは、この支配構造とどう向き合うのか? グロー バリズム、多極主義、隠れ多極主義が混在する現在のアメリカの行方と、SNSを中心とするインターネット技術が市民革命に果たす役割とは? 中東のリアリ ズムを見せられると、様々なパワーバランスや問題点も見えて来るではないか。

2013年2月 3日 (日)

輝け!2012年My鑑賞映画作品最優秀賞発表。

今年は昨年より更に遅れての発表となりました。怠慢と言えば怠慢ですが、仕事が忙しかったからというのが主な理由なので、自分としてはありがたいことだと思っています。

2012年は劇場鑑賞作品が43本と相成りました。ここ何年かとほぼ同じペースでしたが、週一には少し足りないところがやや微妙といえば微妙です。一昨年くらいから、特に単館系の小作品はを2番館3番館で鑑賞することが増えてきたので、実際の公開時期と私の鑑賞時期がずれているものが結構あります。その辺も踏まえ、あくまでも「My」最優秀作品ということでよろしくお願いいたします。(^^)


灼熱の魂● 金賞  灼熱の魂 =腰が抜けそうなくらい感動しました、名画です=

● 銀賞 別離 =アカデミー外国語映画賞受賞作品=

● 銅賞 人生はビギナーズ =ちょっとだけ背中を押された感じ=

● エンタメ賞  宇宙人ポール =大好きなSFにしゃれたユーモア=

● 問題提起賞  ルート・アイリッシュ =イラク戦争後の問題を扱って衝撃=

● 邦画賞  エンディングノート =ドキュメンタリーに近い感動作品=

● アクション賞  アベンジャーズ =満腹=

● 特別賞 アルゴ =一番好きなジャンル社会派サスペンス&実話ベースということで=


宇宙人ポール (U・S・A)
永遠の僕たち (U・S・A)
ワイルド7 (日本)
善き人 (ドイツ/イギリス)
ヒミズ (日本)
J・エドガー (U・S・A)
琉神マブヤーTHE MOVIE 七つのマブイ (日本)
ラビットホール (U・S・A)
人生はビギナーズ (U・S・A)
汽車はふたたび故郷へ (フランス/グルジア/ ロシア)
おとなのけんか (フランス/ドイツ/ポーランド)
昼下がり、ローマの恋 (イタリア)
エンディングノート (日本)
ヤング≒アダルト (U・S・A))
ヒューゴの不思議な発明 (U・S・A)
ピープルvsジョージ・ルーカス (U・S・A/イギリス)
ポエトリー アグネスの詩 (韓国)
ドライヴ (U・S・A)
少年と自転車 (ベルギー/フランス/イタリア)
ルルドの泉で (オーストリア/フランス/ドイツ)
灼熱の魂 (カナダ/フランス)
ルート・アイリッシュ (イギリス/フランス/ベルギー/イタリアス/スペイン)
別離 (イラン)
バトルシップ (U・S・A)
REC/レック3 ジェネシス (スペイン)
ファミリー・ツリー( U・S・A)
メン・イン・ブラック3 (U・S・A)
グレイヴ・エンカウンターズ (U・S・A)
アメイジング・スパイダーマン( U・S・A)
崖っぷちの男 (U・S・A)
ぼくたちのムッシュ・ラザール ( カナダ)
ダークナイト ライジング (U・S・A/ イギリス)
遊星からの物体X ファーストコンタクト (U・S・A)
トータル・リコール (U・S・A)
アベンジャーズ (U・S・A)
プロメテウス (U・S・A)
最強のふたり (フランス)
デンジャラス・ラン (U・S・A)
鍵泥棒のメソッド (日本)
ライク・サムワン・イン・ラブ (フランス/ 日本)
アイアン・スカイ (フィンランド/ドイツ/オーストラリア)
アルゴ (U・S・A)
人生の特等席 (U・S・A)

2012年9月22日 (土)

映画感想文 最強のふたり◆Intouchables

最強のふたり 昨年フランスで公開され、歴代興収記録第3位という大ヒット。ヨーロッパ各国でも人気を博し、ハリウッドがリメイク権も獲得したという話題作が公開された。

 首 から下が全て麻痺の障害を持つ富豪フィリップに、身の回りの世話係として雇われた下層階級出身の元犯罪者ドリス。全く違う境遇の二人が、労使の関係を超え た友情で結ばれていく過程を、上質のユーモアセンスで魅せる、爽やかで気持ちのいい作品だった。驚くことに、実話ベースだとのことだ。

 そ して、この作品自体の成り立ち。客を呼べるビッグネームのスターをキャストに連ね、天文学的資金と、最新のデジタル技術を投入し、更には大々的なプロモー ションによって収益の最大化を目指すエンタメビジネスのモデルに沿った手法とは全くの対局をなすような作品が、静かな支持を広げ、日本国内でもすこぶる好 評という話を聞くと、映画ファンの端くれとして、とても嬉しい気持ちになる。今月初めの公開以来、全国100館未満の公開にもかかわらず、動員数は上位に 名を連ねているというから、その人気ぶりは大したものだと思うが、映画作品のまとまりとしては、いささか首を傾げたくなる部分も結構多い。

  たとえば、冒頭のカーチェイス。掴みとしては面白いし、二人の息がぴったり合ったことを表すエピソードではあるが、そこから時間軸を遡った構成にする必然 性がイマイチぴんと来ない。二人にとって大切なエポックなのか?何かのターニングポイントなのか?そうでないとすれば、映画作りの常道とはややずれている と思われても仕方ないだろう。また、フィリップとドリスを中心に繰り広げられる、言わばドタバタ調の濃密なドラマに比べ、社会の底辺に生きる人種であるド リスの家族の境遇についての描かれ方はまるで無言劇。彼自身が語る身の上以外は、観客の想像力にゆだねられているようだ。物語の後半に、ドリスに救いを求 めてくる弟と、深夜まで働く母親の姿を絡めたシークエンスはその顕著な部分だが、二人の境遇の差異がストーリーの大切なベースであるなら、やや希薄すぎて バランスを欠いていると思えてしまうがいかがだろうか?

  しかし、これらの弱点に見える部分を差し引いても、とても気持ちのいい後味が残るのは何故か? 言うまでもなく、絶対接点のないはずの「最強のふたり」が、偶然の出会いを経て、立場や境遇を超え次第に魂を共鳴させ、本物の友情を熟成していく奇跡のような過程を目の当たりにするからだ。原題「Intouchables」は、社 会的な被差別階層の意味と、中産階級から見れば雲の上にいるような、元貴族の富豪への近寄りがたさ、ふたつの意味を含んでいるのだろう。そして、その概念 そのものが、ひとりの人間同士の関わりにおいては、いかにくだらないことであるのか、この二人が体現してくれるのを見ることも、心の深いところからわき起 こる感動の源泉に違いない。

  実話ベースの作品は、ドキュメンタリータッチでは無いとはいえ、当人達が存命の場合は、事実を大きく逸脱するような過剰な演出をすることははばかられるだ ろうし、フィクションを絡めることは勿論タブーだ。(しかし、一万ユーロの絵画のエピソードはホントかな?) ある程度の制約がある中で、これだけ心に響 く作品を撮った作り手には大拍手を送りたいと思う。そして主役二人の演技はとても好感度高く素晴らしい。特に顔の表情以外は全く許されない役柄を見事にこ なしたベテラン俳優フランソワ・クリュゼ。映画史上に残るであろう余韻を醸す、終盤レストランの窓越しに見せる笑顔の演技で、私達を完全にノックアウトし てくれる。

 20世紀後半には我が世の春を謳歌した、G7とかG8などとくくられる経済先進国も、数年前の金融ショックから続く低迷から、 すっかり閉塞感に苛まれたままだ。経済的繁栄の追求イコール幸福という価値観は、もはや何の意味もないことを私たちは知ってしまった。そんな今だからこ そ、本物の「絆」の美しさに打たれるのは必然なのだ。

  後日談として紹介されるモデルになった並んで写る二人の写真と、身体的ハンデと社会的ハンデをそれぞれ克服して幸せに暮らし、今なお変わらぬ友情を保って いるというテロップは、作者からの力強いメッセージとして伝わってくる。 そして更には、この夏ロンドンパラリンピックで、ライバルとの戦いと、自らの限界とに挑戦する、障害を持ったアスリートの奮闘にも思いが重なってくるではな いか。

2012年8月14日 (火)

映画感想文 別離 ◆ Nader and Simin, A Separation = جدایی نادر از سیمین‎

別離 「縮図」というよく使われる言葉がある。 『現実の様相を、規模を小さくして端的に表したもの。「社会の―」』。昨年のアカデミー外国語作品賞を受 賞したこの作品は、日本人の私達が普段身近に接することのない異国、異文化、異宗教の地、イランの中流家庭で起きた事件をテーマに、現代イラン独特の背景 と、他国でも起こりうる普遍の問題を重ね合わせ、見知らぬ国の、正に縮図を見せてくれる。

物語には二組の夫婦が登場する。主役で、冒頭か ら登場するナデルとシミンは、離婚調停中の夫婦。それぞれの主張は相容れず、別居を選択することになる。認知症老人の存在とその介護を担ってきた妻の不 在。 それを埋めるためメイドとしてやってくる女性ラジエーと、後にかかわってくる夫。 この二組の交わりを縦糸にして、やがて起きる事件と、ミステリア スな背景を横糸に据え、ゆっくりと少しずつ人間模様を紡ぎ出すように進む物語はとても濃厚で、見応え十分だ

ラジエーがナデルの家にメイ ドとしてやって来て間もなく起きる出来事で、彼女の深い信仰心を見る。厳格に分けられた男女の関係。夫以外の男には触れることさえ許されないイスラムの教 えが、事件の下敷きになることを、異国の私達も強く刷り込まれる。とても上手い掴みだ。そして次に起きる事件で物語は大きく動く。ラジエーが、メイドとし ての勤めを放棄し、老人を縛って外出、更には家の金にも手を付けたとして激高するナデル。そのまま追い出されたラジエーは、翌日になって、身ごもっていた 子を流産してしまう。

ここで登場するラジエーの夫ホッジャ。元々短気な上に、長く失業しているフラストレーションも手伝って、流産の原 因を作ったのがナデルだと決めつけ、胎児の殺人者として告発してしまう。 一方、ナデルは、ラジエーに対して、父親への虐待を理由に逆告発をし、二組夫婦 の争いは出口が見えない泥仕合の様相になってくる。ラジエーは何故流産したのか?その原因は本当にナデルの所行のせいなのか? また、事の発端、誠実そう なラジエーが、認知症の老人を縛り付けて放置した理由は?これら解きの要素を含みながら、四者の心模様を巧みに描く素晴らしい脚本とリアリティ溢れる演出 に、ぐいぐい引きこまれる。

  この物語に登場する人物達には、はっきりした悪意の者は一人もいない。しかしながら、争いが生まれてしまう のは何故か?自分の信ずる価値観の中で、最も大切にすべきものを守ろうと懸命になることで陥りがちな近視眼。気づかないうちに他者とすれ違い、更には亀裂 を生み出してしまう。それが、人間としての性であるなら、私達の身の回りにいつ起きても不思議ではない。だからこそ、私達がこの人々の悩みや痛みに共感 し、争いの行方に目を離せなくなるのは必然であるのだ。

登場人物の大人達は、皆終始曇った表情をしている。僅かに笑顔を見せてくれるのは、二組夫婦の娘達だけだ。屈託無くうち解け、じゃれ合う姿には一瞬癒さ れる。しかし、そんなピュアな態度とは裏腹に、大人達の争う姿には心を痛めている。特にナデル・シミン夫婦の年頃の娘テルメーが、親の鎹(かすがい)になろうと心を砕い ている姿には打たれる。掛け違えてしまったボタンを、時間を遡り直すことは誰にも出来ない。だから再び両親がやり直すきっかけに、自分がなれればという健 気さはどうだ。主人公夫婦は、娘の願いを受け入れることが出来るのか?大人の諍いの結末は・・・。

  自分自身の心に誠実であることと、守るべきと考える価値に対して真摯であること、似ているようでありなが ら、両立するには難しいテーマ。それが出来ている人は幸福だ。主人公達の姿から、そんなことを教えられる作品でもある。そして、長く生きるほど色々なモノ や事柄を纏い、何処かで無理を抱えて 生きなくてはならないのが大人なのはよく解っていても、この作品のエンドシークエンスで、究極の難題を前に立ちすくむローティーンの娘テルメーの姿に、ドライな目で向き合えるような、ひからびた心になることだけは願い下げたいとも思うのだ。

オマケ : この映画で取り上げられている数々のテーマは、現代イランの現状を知ってから再び向き合うことで、寄り深く理解出来ます。その道しるべが公式サイトにあるので、未見の方は本編をご覧になるより先にご一読をお勧めします。映画『別離』を理解するためのワンポイント 

 

2012/5/3 シネマジャック&ベティ
2012/7/19 川崎市アートシアターアルテリオ映像館

2012年5月14日 (月)

エンディング・ノート

エンディングノート映画感想文です。川崎市麻生区にある公営のミニシアター「アルテリオ映像館」というところに、最近よく行きます。シネコンなどでは掛かりそうもない地味な良作を取り上げてくれるので、自分の趣味とマッチするからです。そこで、とても心に残る一本に出逢えました。若い女性監督が撮ったドキュメンタリーです。


静かな話題作を見てきた。実在した砂田知昭さんという方が、定年退職後間もなく癌を患い、亡くなるまでのご自身に残された時間をどう過ごし、遺族や 知人友人に対して何を残し、託していったかと言う過程を映像としてまとめた珍しい作品だ。そして、それを撮影し仕上げたのは、実の娘であり、本作監督の砂田麻美さんだ。

 結論から言えば、とても暖かい気持ちになれる素敵な作品だった。現代日本人の平均からいえばかなり若い部類に入る67歳での死、ご本人が思い描いていたであろう定年後の第二の人生を、ほとんど楽しむことなく不治を宣告されるとは、さぞや無念であろうことは想像に難くないが、 映像に残る砂田さんの姿はそのような悲壮感は微塵もない。とても冷静で知的、そして常にユーモアを忘れないおちゃめなお父さんだ。

劇中のナレーションは、娘である砂田監督自身が亡き父知昭さんに代わって語るという形式をとっている。 ビデオ映像に残るご本人が語る言葉と、心中を語る娘の声が良い具合にバランスされているのだが、どちらにも常に独特のユーモアがあり、弱っていく外見とは相容れないギャップが、悲壮感を遠ざけているのだ。

慶応大学経済学部卒、東京丸の内に本社を構える化学企業を支え、重役にまで上り詰めたモーレツサラリーマンだった砂田さん。 ポスターの写真は、まだ現役会社役員で、バリバリの時期のものだ。恰幅が良くて明朗快活、仕事への自信に満ち溢れている姿は、戦後日本の高度成長を駆け抜 けた働きマンの姿そのものだ。多分この頃の砂田さんの日常は、ご自身の仕事が何よりも優先、営業畑一筋のキャリアに強烈な自負を持ち、会社への貢献度と自身の存在意義がパラレルという、「プロジェクトX・地上の星」な男だったんだろう。 病気療養中の医師との会話や、葬儀を託したい神父との会話にも頻繁に 登場する「私事(わたくしごと)で恐縮ですが」という言葉、会社人は自分の主義主張や欲求、ましてや家族のことなどは二の次三の次が当然。全身全霊を会社 と仕事に捧げて突っ走ってきたに違いない。 だが、それはややもすると家庭・家族を顧みない、家では影の薄い典型的昭和のお父さん像だったかも知れない。

 そんな働きマンが仕事をリタイアし、家庭人として歩み出した新たな人生は、当初実はぎこちないものだったらしい。しかし、幾つかの山 や谷を超えて穏やかに進み出した日々に突然降る癌宣告。そして図らずもここから始まった終活、砂田さんが最後に自身に課したTodoリストは、ご本人の言 葉を借りれば「段取りの命」の通り、水をも漏らさぬ人生の最後を締めくくるにふさわしいものだ。しかしその内容は、かつてすべてを捧げた会社とのかかわりや、自身の業績について総括しようというものではなく、もしかしたら、長い間ないがしろにしてきたかもしれない、家族との時間を主にしたものであり、過去 の価値観とは違う終末を望む内容だった。

病状が悪化し、間もなく死期が迫ろうという頃、砂田さんは最愛の孫にお別れを言う。そして病床で妻 に最後の感謝の言葉を伝える。この時代を駆け抜けた多くの夫婦がそうだったように、仕事命亭主と、家に残された妻。価値観のすれ違いを抱えて連れ添い続け た夫婦のもつれが一気に解ける。 この瞬間に溢れる出る言葉と涙は何より美しかった。そして、実の娘とはいえ、夫婦以外が立ち会うことなどあり得ない尊い 場面を作品に収めた麻美監督に拍手を贈りたい 。

笑いと涙をごちゃ混ぜにして物語は終わりに近づく。生前の希望通りに葬儀が営まれ、砂田さんの残したエンディングノートが披露される。いつか必ず訪れる家族や友人との別れ、送る側も送られる側も避けられないことであるなら、この先輩が残してく れた素敵なメッセージから教わることは多そうだ。

実の父というスーパースターをモチーフに、素晴らしい作品を撮り、編集もこなした砂田麻美監督。手持ちのハンディビデオカメラ映像がほとんどを占めるドキュメンタリータッチだが、ひとつの完成されたエンターテインメント映画作品にまで昇華させた手腕は見事。プロの演技者を使って撮る次回作に真価が問われるだろう。大いに期待したい。

オマケ=少し前The Bucket Listという米国作品がありました。同じようなテーマを扱ったものですが、どちらに共感するか比べて見るのも一興かもしれませんね。

2012年3月23日 (金)

人生はビギナーズ ◆ Beginners

Biginners久しぶりに映画の感想文など。地味ながらとても暖かい作風の佳作です。父親役のクリストファー・プラマーがアカデミー助演男優賞を獲得した作品ですね。古典的名作「サウンド・オブ・ミュージック」のトラップ大佐役で有名です。


鑑賞した映画作品を好きになるかどうかという基準はどうやって決まるのだろう。劇場のシートに座りながらぐいぐい引き込まれるようなものは当然とす れば、あとで反芻し、自分の価値判断や趣味に照らして、作品の出来映え評価や好みとのマッチングなどをしながら、心の中のライブラリーのどこにしまうかを 考えるという手順を経るのものもあるかもしれない。 映画を沢山見ている方には、良い作品だと思うけどキライとか、逆に駄作だけどスキというひねられた感 情が交ざることもあるが、大概は「楽しめた」イコール「スキ」という評価が下されることが多いのではないだろうか。

マルチなクリエーター、マイク・ミルズ監 督が、自身と父との体験を基に映画化したという私小説的なこの作品を、私はとても気に入っている。かなり好きな・と表しても良いかもしれない。しかし、そ れはストーリーの進行と共に沸き上がってきた気持ちというより、見終えた後に少し時間をおいてから気づくという感じ、ほのかなユーモアが漂い、全体にとて も柔らかく作られ、暖かみに満ちあふれた作風は、じわじわっと心に浸みてくるサプリメントのような印象だった。

 主人公のオリヴァー(ユア ン・マクレガー)は母の死後、高齢の父ハル(クリストファー・プラマー)から自分がゲイであることを告げられる。過去に結婚に失敗し、内向きな性格も手 伝って、暗めの人生を送っていたオリヴァーにとっては晴天の霹靂だが、そんな息子のとまどいをよそに、既に病に犯され、余命が短いことを知りながら、残っ た人生を謳歌していく父親。母親の生前抱いていた頃の印象とはまったく違う人生に踏み出す父の姿に影響を受け、自分の殻を破ろうと踏み出す彼に、厳しくも 訪れた父との別れ、再び落ち込みがちな彼の前に現れたのは、風変わりな美女アナ(メラニー・ロラン)、一種似た者同士の二人はすぐに距離を縮める が・・・。

何と言っても、主な登場人物三人の演技者プラス犬のアーサーが素晴らしい。 クリストファー・プラマーは、自身の余命を知りながら、新しい生き方に突き進むチャーミングな老人を見事に演じ、ユアン・マクレガーは、人生に悩みなが ら、父の最期を共に歩み、死後再び心を閉ざす息子を好演し、メラニー・ロランが演じる、そんな悩める恋人に寄り添う不思議な魅力を持つ女性像はとてもエキゾチックで魅力的だ。 そして、オリヴァーが引き取った父の飼い犬、愛くるしいテリアのアーサーが時折投げかけてくる(人の言葉で!)シニカルなフレーズのセンスは抜群!

 作 品全体は短めカットにより組み立てられ、時系列を行き来し、まるで主人公の記憶の断片を見ているような作りだ。現在進行中のアナとの関係、そこには息子に 対して送られるアドバイスのように、父の生前の記憶が挟まる。やがて、父の死期が迫るのと対照的に、息子には喪失感から解放され、新たな一歩を踏み出す時 がやってくるという、それは緻密に計算された見事な構成でありながら、プライベートビデオを見るような感覚にも近く、登場人物と私達観客の距離は、知らず のうちに無くなり、彼の友人の一人のような目線になっていることに気づく。

 生きることは常に未知のテーマに向き合うこと、たまにはその前 で途方に暮れたり、考え込んでしまうこともあるのが人間だとしたら、この物語から最後にプレゼントされるワンフレーズを思い出して見るのも悪くない。きっ とそんなとき、人生の初心者へちょっとの手助けをくれたり、背中を押してくれる人は誰の周りにも必ずいるはずだから。

2012/2/9 チネチッタ川崎にて

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