なんちゃって映画感想文 Feed

2009年1月 4日 (日)

「Across The Universe」

Across_the_universeプルーデンスへ。少しの友の助けがあれば螺旋階段を下れて、ルーシーも空を飛べる。黒い鳥も、セイウチも、もしも恋に落ちたなら、君の手を握りたいと願う・・。なぜなら、イチゴ畑は永遠で、愛こそがすべてだから。オー!ダーリン、なすがままに。

 予告編で見た、冒頭で主役がアカペラで歌う「Girl」にぞくぞくっとし、劇場に行こうと決めました。

  私はビートルズより少し遅れてきた、しらけたノンポリ世代なので、ヒッピー文化やポップカルチャー、ベトナム反戦などに端を発した政治的なムーヴメント等、若者がエネルギッシュで大きなうねりの中にいたこの時代に、ほのかなあこがれを持っていました。 まさにその時代を描いたこの映画には、弱いところに 直球を投げつけられた感じです。

 ミュージカル作品ですから、筋は至極単純な男女の恋愛物語です。 宣伝コピーにあるような「宇宙規模のラヴストーリー・・」ではありません。 しかし、ビートルズの数々の名曲たちに圧倒され、シンプルな展開にぴたっとはまる選曲のセンスと演出にはすっ かり脱帽しました。 そして、時代のうねりの前には男女の愛のカタチも影響を受け、変わってくるとのだという事実も目の当たりにし、真摯にぶつかり合う若い男女の姿の美しさに、じんとしました。

  ジャニスのような女性ヴォーカリスト、ジミヘンのようなギタリストなどキャスティングにニヤリとさせられたり、主人公の描くイラストから、ジョンのそれを 彷彿とさせられたり、嬉しいネタがたくさんちりばめられているのも楽しいですね。 ボノ、ジョー・コッカーにもしびれます。 そして圧巻は、「ストロベ リー・レコーヅ」屋上での演奏シーンです。「All you need is Love」には、涙が滲みました。 ミュージカル映画で泣けるなんて・・。

 素敵な音楽は人を元気にしたり温かい気持ちにさせる、元気になったり温かい気持ちになった人は他人に優しくできる、こんな小さな連鎖で世の中が少し元気に なったり優しくなったり、明るくなったりすれば、進むべき正しい路が見えず、閉塞感に満ちた21世紀初頭の今の世界も少しは良くなるかな?などと、既に二 人になってしまった巨匠達の遺産に触れながら、少し思ったのでした。

at MOVIX橋本

2008年11月 9日 (日)

迷子の警察音楽隊

Maigo 鮮やかな水色の制服を着た、浅黒く彫りの深い顔のアラブの男達が、所在なげに並んで迎えを待っている無言劇のような冒頭シーン(ポスターの絵柄も同じ)から、作品全体のトーンが伝わってきます。

 英国題The Band's Visit イスラエルの作品なのでヘブライ語の原題は読めません。

 異国の見知らぬ土地に、図らずも滞在することになった警察音楽隊の面々、その一夜の出来事を綴った90分あまりの短い作品ですが、ほのぼのとした雰囲気とそこはかとないユーモア、絶妙の間がおいしい、いい作品だと思いました。

ア ラブの盟主エジプトの警察官たちが、隣国でありながら建国以来決して良好とは言えない関係にあるイスラエルに赴く。両国の関係、距離感などを深くは知らな くとも、その微妙なシチュエーションが、彼らの心細げな描写の根底にあることは容易に想像がつきますが、そのあたりについての深読みが必要とは思いません でした。

 異国からの突然の来訪者と、それを受け入れる辺境の町の人々、それぞれが母国語でない言語でぎこちなくコミュニケーションをとり ながら、少しずつ心を通わせて行きますが、その過程の小さなエピソードの積み重ねによって登場人物像の輪郭も見えてきます。 このあたりの作りにも好感が持てます。

 隊長と食堂の女主人との交流、若く女たらしの隊員が初な若者に恋の手ほどきをするシーン、枯れかけていた初老の隊員が希望を取り戻すシーンなど見所が何点かあります。それぞれが自然で、妙な教訓じみていないところもオススメです。

 現代の大人の童話として、アラビアンナイトに書き足したいような作品です。


at MOVIX 橋本

2008年10月 2日 (木)

悲しみが乾くまで

Kanashimi_1_1b THINGS WE LOST IN THE FIRE 「私たちが炎の中で失ったもの」という名の作品、邦題はストーリー全体に流れるテーマを意味していますが、原題は作品内で語られる、とても感動 を呼ぶワンシーンから象徴的に選ばれていますので、その違いがちょっと複雑です。

  突然夫を失ったことで、それまでの幸せな生活が一変し、幼い子供と3人で悲しみに立ち向かってゆかねばならない美貌の未亡人。 死んだ夫の親友で、心なら ずも麻薬中毒患者となり、再生を志す元弁護士の男。 それぞれの複雑な思いを持ちながら始めた共同生活。 こんな境遇の二人が恋に落ちたりしたら、ただの チープなメロドラマと化してしまうところですが、さにあらず。 その課程で描かれる深い人間ドラマは、脚本、演出、出演者、きわめて上質です。

  登場人物は少なく、オードリー(ハル・ベリー)、ジェリー(ベニチオ・デル・トロ)の主役二人、その他、夫役のデヴィッド・ドゥカヴニーや子役達など10 人に満たないかもしれません。それ故に、それぞれの人物像やこころの動きなどを丹念に作り込み、決して大袈裟ではないドラマが、深い味わいの作品に仕上 がっていると思います。

 特にアカデミー俳優主役二人の役作りは見事です。  夫の死後、子供の前で気丈に振る舞いながらも時折見せる女の弱さ。、亡き夫の親友ながら敗北者であるジェリーとの微妙な関係に、お互いが抱く揺れ動く思 いとその変化、距離感の移り変わりなどを、とてもうまく表現しています。 また、一旦立ち直ったかに見えたジェリーが、再び麻薬に手を出し、禁断症状に苦 しむ様は、まさに鬼気迫る演技です。

 しかし、それらを本物に仕上げているのは、以前、「アフター・ウエディング」という作品で出会ったデンマーク人女性監督 スサンネ・ビア、今回がハリウッド初進出作品だそうですが、その手腕は見事です。 とても微妙で、難しい状況設定のドラマを巧みに映像化し、決して多くはないセ リフと、眼差しのクローズアップを多用した独特の作画は上品で、静かな感動に満ちています。 

 先への希望が感じられるエンディングのすがすがしさも相まって、大人の鑑賞に堪える良作だと思います。


at横浜ジャック&ベティ

2008年8月31日 (日)

闇の子供たち

Yami とても重いテーマの作品です。真夏の陽光の下、夏休み真っ盛りの大都会のシネコンで見ましたが、お子様向け作品を見に来ている幸せそうな親子連れの人並みをかき分けながら、金属の固まりを飲んだような感覚での帰途になりました。

 途上国における闇社会、貧困からくる悲劇、前編を通した悲惨な描写は、かなり現実を反映しているとのこと。

  本作で描かれた白人や日本人の幼児買春客たちは、憎むべき現実が存在していることを告発し、私たちが知らない影の世界を暴いて白日にさらしてくれます。  大多数の普通の者は、この変態野郎達を蔑み、悲惨な子供達の現実に心を痛めることになるのです。 売春宿でエイズに感染し、捨てられた少女がやっとの思い で故郷までたどり着き家族の元に戻りますが、その末路は本作中最も悲惨なシーンとして忘れられません。

 そして平行して描かれるもう一つ のおぞましきテーマ、生きた子供の臓器売買については? 梶川の立場に自分が立たされたらと考えたとき、突然その重さが圧倒的な現実感を持って迫ってきま す。この夫婦の言葉に、どこかで共感している自分の心に恐怖と嫌悪を抱いてしまいます。手術を阻止しようとする者、事実を告発しようとする新聞記者、我が 子を救いたい親、三者三様の思いが交錯する梶川家のシーンは、象徴的で、とても考えさせられる演出だと思いました。

 エンディングのワンシーンについては、賛否が分かれると思いますが、残念ながら私は違和感を抱きました。 上映終了後、これについての客同士の会話から、ストーリーの結末を一部曲解しているニュアンスが聞き取れ、その感を強めました。

 また、状況設定にやや強引さが見られるところ、終盤のアクションシーンの挿入の仕方など、やや首を傾げたくなるところがあるのが残念な部分ではあります。少しマイナス点でしょう。

 豊原功補演ずる清水が異国と日本の距離感を縮め、リアリティを高める役柄として印象に残ります。そして、タイ人の重要な登場人物男女二人が、日本人に対してぶつける激しい嫌悪感は、強烈なパンチを私達に食らわせます。

サスペンスとしての結末も楽しめますし、最後まで釘付けられる質の高い社会派作品として高評価したいと思います。


109シネマズMM21にて

2008年8月 2日 (土)

告発のとき

Kokuhatsu唯一の超大国が抱える闇を静かに告発する・・。戦場で壊れてゆく若者達の見えざる事実。

イラクから帰還した息子マイクが失踪したことを知らされた、トミー・リー・ジョーンズ扮する元軍人警官の父親ハンクが、息子の所在を確かめに基地の ある町に向かう。無断離隊という不名誉な行いに釈然としない厳格な父は、軍警察の捜査に納得せず、シングルマザー女刑事エミリー(シャーリーズ・セロン) とともに独自に事実の調査を始める。そして、次第に明らかになる真実。

 2003年に起きた事実を元にポール・ハギスが監督、脚本を手がけた作品とのこと。 あまり多くの予備知識を持たずに望みましたので、行方不明の息子を 捜す謎解きミステリー的なテーマの作品と思っていましたが、それだけではありませんでした。 いい意味で裏切られました。

 マイクの死の真 相へ迫る過程で、彼が残した携帯電話の映像や声、戦友から知らされた「ドク」という愛称の由来などから、戦場イラクで何を見、体験し、心をどのように変化 させていったかが明らかになるにつれ、その闇の深さを父ハンクの目線を通して知ることになります。 軍人一家に生まれ育ち、正義感に溢れたよき青年が、戦 場の狂気により心を破壊されていく事実はあまりにショッキングで、言葉もありません。 退役軍人らしく投宿中も規律正しい日常生活スタイルを貫いていたハ ンクが、事件の事実に迫るにつれ、心なくも自堕落な態度に変わっていくのにも、抑制の効いた態度の裏に隠された心の変化が読み取れます。

 そして、更に暗鬱になるのは、マイクを惨殺した犯人のセリフ、「自分たちがマイクを殺したが、時と場所が違えば、自分が殺されていたかも・・」。 そして、父に謝罪をするその目に精気はなく、うっすらと笑みさえ浮かべる表情はまるで抜け殻のようです。 

  刑事エミリーの存在は、軍社会の外側からの目線、つまり普通の米国人の感覚で事件を捉え、別の意味でのアメリカ社会が抱える暗部を対比させているようで秀 逸だと思います。 その幼い息子にハンクが語る「ダビデとゴリアテ」の逸話が、本作の原題“エラの谷” の意味するところでもあります。

  このところ、米国の映画シーンはイラク戦争への反省ブームともいえ、この種の作品が多く作られています。 自由と正義と名の下、世界中に軍を送り続ける覇 権国家アメリカ。その国が、逆さ国旗を掲げなければならない事態に陥っているとしたら、それはいったい誰に向けてのメッセージでなのでしょうか? そし て、その混迷の出口は何処にあるのでしょうか?


at TOHOシネマズ ららぽーと横浜

2008年7月14日 (月)

「潜水服は蝶の夢を見る 」at名画座

Scaphandre_1_1a この不思議なタイトルからどんなイメージを抱かれますか?

 突然の脳障害で「ロックイン・シンドローム」(閉じ込め症候群)におかれた主人公の、実話にもとづく作品です。ただし、この症状、脳は正常に働いているのですが、身体が麻痺して動く事もしゃべる事もできません。 唯一のコミュニケーション手段、それは左目のまばたき・・という驚くべき状況で書かれた本が原作となっています。

 長い昏睡から目覚めた主人公「ジャン=ドー」の“目線”で物語は始まりますが、異様な光景が、彼の置かれた現実を次第に見るものに明らかにして行きます。 この特殊な状況の中、彼はサーポートしてくれる人々の助けにより、意外な方法でその意思を伝えることを試み始めます・・。

 人の尊厳を問うた格調高い感動作といった作品かに思えますが、意外ににそうではありませんでした。 前半は、言葉を発せないジャン=ドーの心の声と目線での映像で描かれますが、その言葉には、このような状況での心情とは思えぬユーモアが漂い、彼の人となりが推し量られます。 

 そして、まるで重たい潜水服を着せられ深い海の底に一人取り残されたような状況にあっても、「想像力と記憶で僕は、蝶が自由に舞うように、自分をどこにでも連れて行ける」思いを抱いた彼のイマジネーションが映像化されるシーンは、時に美しく、時にエロチックに、時に暖かく表現され、作り手の素晴らしいセンスを感じます。

 後半になって、カメラは"普通"のポジションに移り、ジャン=ドーの姿を初めて見ることになります。 大きく開かれてきょろきょろと良く動く左目、そして、それと対照的な無表情、病に倒れる前の人生を謳歌する元気な彼も。 前半の、どちらかと言えば観念的な映像から一変して、現実と過去との落差を直視させられます。 その哀れを誘う姿が、見る者の心を痛めることも確かにあります。 しかし、別れた元妻や子供達、息子の不幸を悲しむ年老いた父親、彼の"口述"を記録する女性編集者、メディカルスタッフ、そして現在の恋人など取り巻く人々との接点の描写が、彼の人間くさい普通の人ぶりをよく表していて、特別ではなく、身近に感じるのことができる作りになっているのです。

 身体の自由を奪われたジャン=ドーの服が、病人のそれとはまったく違い、いつもしゃれたいでたちなのにも、ココロをくすぐられます。

 美しい映像、そこはかとない愛と希望が漂う大人の鑑賞に堪える素敵な出来だと思います。

オマケ:フランスの充実した医療システムを目の当たりにし、マイケル・ムーアの「シッコ」を思い出しました(笑)


at 横浜ジャック&ベティ

2008年7月 3日 (木)

「●REC」

Rec

 P.O.V.(PointOfView)手法による、リアルパニックムービーとのこと。日本語では主観撮影と訳されるそうですが、現場に居た人が撮影した衝撃映像が映画そのものになっているというやつですね。

 「撮るのよ全部!」という主役リポーター役の言葉が最後まで繰り返されることで、その必然性を強調しているという訳です。 先の秋葉原事件の時 も、多くの人が現場に向けて携帯やら、デジカメやらを向けて撮影している風景を見たばかりなので、こんな作品が次々登場する時代的な背景が整ってきたとい うことでしょうか。

 作品中BGMはまったく使われていませんので、ビデオカメラの生中継を見ているような作りがリアルさを醸しだし、観客自信が、あたかも現場にいるような感覚で見ることになるわけです。また、視野が限られることで、見えないところへの恐怖心を煽っているのかもですね。

  P.O.V.撮影については、手持ちカメラの撮影者がTVクルーという設定なので、高速パーンがほとんど無く、ブレも少なかったので見ていて目を回したり、酔うこともなく助かりました。

  閉鎖空間、スプラッタ、オカルト的要素など、低予算と思われる中で、怖がらせ要素がいろいろ工夫されていて、中盤以降では「ぐー」に握った手にかなり力が 入ってしまい、しっかり怖かったです(汗) 特にクライマックスの「開かずの間」の中で繰り広げられる、謎解きに迫るおぞましきシーンは、心臓のヨワい方 は遠慮されたほうがいいかもと忠告差し上げたい出来映えです。

  終盤の落としどころに向け、都合のよい状況設定や、展開に無理があるなとツッコミたくなるところもありますが、そのあたりはホラーを楽しむにはそこそこ目をつぶるべきかと・・。 

 余談1:見終わった後明るくなった場内で、私の近くにいたカップルの会話。女性「もっと怖いかと思った。」青ざめた男性「・・・。」

 余談2:作品に邦人らしき登場人物がいて、「私がしゃべってるんだから~!!」みたいな言葉を日本語で叫ぶシーンに苦笑。


atTOHOシネマズららぽーと横浜

2008年6月19日 (木)

「アフタースクール」

分かっていながらはめられる快感に酔う。そして反芻する楽しさ。一粒で2度オイシイ上質エンタテインメントAfterschool

 このところの映画レビューで、満足度1位をキープしている作品でしたので、期待を持って観に行きました。 果たしてその期待に違わず、上質エンタテインメントとして十分楽しめました。 

 面白さの決めては、緻密に練られ構成された脚本によるところが大きいと思います。 その監督・脚本は内田けんじ、前作「運命じゃない人」が話題になった監督です。 そういうわけで内容に触れるとオイシイところを暴露してしまうので、もし、これからご覧になろうという方がいらしたら申し訳ありませんから、極力触れずにおきたいと思いますが・・。

 主役は、大泉洋、佐々木蔵之介、堺雅人、人気の3人ですが、その他ストーリーの展開に関わる重要な配役が何人かいます。 前半1/3くらいまでに見る映像から、登場人物それぞれに対する、断片的情報や思いこみによって人の目がどれだけ惑わされているのかというあたりをスルドく突かれ、刷り込まれの度合いが強いほど、作り手のテクニックに、よりきれいにハメられることになります。起承転転結という構成とでもいえるでしょうか。

 裏街道を歩く探偵家業の男(佐々木)と、マジメなお人好し中学教師(大泉)の最後の会話、それによって二人に対する、それまでの先入観、評価がひっくり返されるのも快感でした。 こんな世の中だけど、捨てたもんじゃないよ・・という作り手のメッセージが聞こえてきそうです。

 見終えてすぐに記憶の糸を手繰り、ネタ振りとオチとの関係を一つ一つ振り返ってみる楽しさも、この作品のもう一つの醍醐味かもしれません。同行者とのお茶タイムが充実しそうです。

 全体のテンポが良く、コミカル、シリアスがほどよくバランスされているあたりも好感が持てます。 ぜひご覧になり、騙される快感に酔ってみてください。


at 立川CINAMATWO

2008年6月 2日 (月)

「ミスト」

Mist_1_1b やりきれなさの極み、上映終了後しばらく無口になってしまいます。

 いろいろなレビューで、とても高い評価をされる方が多いので、どうしても見ておかねばと思っていました。 原作スティーヴン・キング 監督フランク・ダラボンとくれば左のチラシにもでかでか書かれているように、あの2作のコンビですから。 

 キングの映画化は過去にとても多く、なかには「え"!そりゃないでしょ?!」と、激しく突っ込みたくなるものもあったので、油断はならないのですが、ダラボン監督が手がけた本ならと、それなりの期待を持って望みました。

 ミスト=霧 英語にはFogという単語もあるので、ネイティヴの方にはそのニュアンスの違いがわかるのかも知れません。

 霧の中から現れる異形の怪物達。 昆虫型、は虫類型、両生類型、節足動物型、そしてゴブリンのようなものまで、およそ人が気味悪いと思うタイプの生き物が次から次へと襲ってくる中盤まで、もうほとんど全身総チキンスキン状態が続きます。なかでも最高グロで勘弁して欲しかったのは、餌食になった人間の皮膚がボコボコっと膨らみ、そこから蜘蛛みたいなやつが皮膚を破りうじゃうじゃ出て来てその直後(蜘蛛の子を散らすように)ざわざわっと散らばっていったシーンです。ウェ~。( 擬音ばかりでスミマセンm(_ _)m )

 しかし、本当に怖く、総毛立つのはその後でした。 こぢんまりしたスーパーに閉じこめられた密室状態で怪物達の総攻撃を受け、だんだん追い詰められゆく人々が、イカれた宗教オバサンの言葉に感化され始めます。 

 モンスターが霧と共にこの地に現れた理由が中盤に明かされるのですが、これを知ったオバサンとその同調者達が「これは傲慢な人間の行いが、神の怒りにふれたからだ! この事態を招いたものを生贄に捧げよ!」と騒ぎ、事実を話した若き兵士を怪物の餌食にしてしまいます。めちゃオソロシーです。そして次なる生贄は・・。

 次第に疑心暗鬼に陥り、やがて本性と敵意をあらわし始める人々、それを煽る狂信的な指導者。 少数派になってしまい、その怒りの矛先を向けられたまともな人たちは、その恐怖からいかに逃れるのか? 

 そして、問題のエンディングです。 賛否両論、様々の物議を醸し出したといわれる15分間は、想定を遙かに超える結末で、見る者の心は、ひたすらやりきれなさに満たされます。 これからご覧になろうという方は、ダメージをうけた心で望まれるのはお控え下さいと警告したくなるほどです。 最後の主人公の叫びが、見る者の胸にぐさっと突き刺さります。

 とても、よくできた素晴らしい作品と思いますが、二度とこのエンディングは見たくありません。


at TOHOシネマズ海老名

2008年5月24日 (土)

「マンデラの名もなき看守」

Photo 南アフリカ共和国初の黒人大統領"ネルソン・マンデラ"20余年の収監の間、専属看守となった男の実話。 なかなか味わいのあるヒューマンドラマです。原題は「GOODBYE BAFANA」。意味は、作品を最後まで観ると解ります。

 その生い立ちから、コーサ語(南アの黒人が話す言葉)が理解できることで、政治犯マンデラ一派の言動を監視するための専属看守となったグレゴリー(ジョセフ・ファインズ)は、それまでのうだつの上がらない暮らしから出世への足がかりを得たと思い、家族と共に移り住んだロベン島の刑務所で、使命感に燃え、収監者達の企てを見抜き、手柄を重ねて行きます。 しかし、マンデラと接することで、彼の人間性、思想に次第に傾倒していき、自身と家族の立場と仕事、マンデラ(デニス・ヘイスバート)への共鳴との板挟みに苦しむことになります。

 実話が元になっているので、ネルソン・マンデラがその後どのような道を歩んだか、悪名高きアパルトヘイト政策がどうなったかは周知の事ですが、本人の伝記ではなく、相反する思想を持った平凡な人間が感化され、変化していく様を描くことで、間接的に彼の偉大さを語るという手法が秀逸だと思いました。

 ストーリー中、グレゴリーが閲覧禁止文書として保管されている「自由憲章」を盗み出すシーンや、胸ポケットに忍ばせているシーンなどはちょっとしたサスペンス仕立てで、面白いアクセントになっています。 また、奇しくも、囚人と看守が共に息子を失うという悲劇で結びつくのですが、どちらも交通事故死という直接原因の裏に何かあるようなニュアンスが漂うあたりに同国の影の部分がちらついて、薄寒くなってしまいました。

 主な登場人物、マンデラ、グレゴリー、その妻役の3人が、見事な演技で作品の味わいとリアリティを深めています。 オススメです。

at 立川 CINEMA CITY


 <オマケ> 

 80年代半ば、英米のポップスターがアフリカの飢餓救済チャリティーで楽曲を発表していた頃、「SUNCITY」という同じようなレコードも世に出ました。 日本では前者ほど大きな話題にはなりませんでしたが、こちらは南アのアパルトヘイト政策に反対するミュージシャン達の共同製作作品でした。以下、YouTubeから、そのビデオ・クリップです。

 この映画をきっかけに、アパルトヘイトのことを少し調べ直してみましたが、その終焉には、東西冷戦終結による国際情勢の変化が多分にあったらしく、単に人道的な必然だけでは無いようで、寂しい思いがしますが、冷たい現実とはそんなものかもしれません。 少なくとも、これから同じような差別が復活することだけは無いよう願うばかりです。

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