なんちゃって映画感想文 Feed

2009年6月13日 (土)

路上のソリスト

Thesoloist  とても有能ではあるが俗っぽい価値観を持つ、新聞の人気コラムニスト。 その境遇を背景に心を病み、世俗を拒絶した生き方をする孤高の天才音楽家。この2人の友情、音楽という芸術、二つの無形を映像によって表現しようとした作品だと思う。

 全編にちりばめられた、ベートーヴェン作品の音楽に重なる映像は、合衆国第2の大都会LAを映したものとは思えない透明感と神々しさに満ちている。
 また、クラシック音楽とはおよそ対極にあるような、トンネル内に響き渡る自動車の騒音や、街の雑沓が生み出す音と音楽を重ねて見せたセンスも素晴らしい。
 ハイライトは、ナサニエルが「英雄」のリハーサルを前に見せる恍惚の表情に迫るカメラと、サイケとも受け止められる映像表現だ。作品中『恩寵』と表現された、才に恵まれた者のみが理解できる、深い芸術性を表現しようと試みた意欲が伺える。

  もう一つの無形。 人としての純粋な友情の下に、職業文筆家として、ホームレス天才音楽家のサクセスストーリーを演出するという計算が透けて見えるス ティーブの言動。その友情に感謝しつつも、敷かれた社会復帰へのレールを拒否するナサニエル。彼の反応を通し、人の心の間にある距離感の微妙さを見せてく れる。
 「THE SOLOIST」という、定冠詞のついた原題にも天才音楽家の孤高と、世俗に縛られない自由な心の内を表わしているのかも知れない。 また、スティーブの 行動に対し、同じジャーナリストでもある元妻が、酒に酔って辛辣な皮肉をぶつけるシーンは、アメリカ映画らしいところだ。

 実話を元に、超大国の大都会にある病巣をもあぶり出しながら、過剰なドラマチックさを控えたジョー・ライト監督の演出と、主役2人の迫真演技が素晴らしい。

09/6/10 シャンテシネにて

2009年5月30日 (土)

スラムドッグ$ミリオネア

Slumdog  今年のアカデミー作品賞含む最多8部門を受賞した作品。 既に評価の定まった作品なので、その魅力を伝える言葉は、既に語り尽くされていると思うが、確かにオスカーの名に恥じない素晴らしいエンターテインメント作品だと思う。 インド・ムンバイ、スラム出身の若者が織りなす極上の青春ラブストーリーだ。

 おなじみのクイズショーを題材に、主人公が発する答えと、警察署での尋問、そして彼の人生をシンクロさせて見せるという構成は原作の手法だというが、ダニー・ボイル監督の手による巧みな映像化によって、見事に大成功していると思う。 

  現代日本のフツー階層に暮らす我々には想像することさえさえ難しい、インドの貧困の現実と、その底辺で生き抜いてきた、主人公と兄の生い立ちが描かれる前半シー ンのスピード感とダイナミックさには圧倒される。 あるときは警備員やギャングに追われ、スラムを走り回り、また、母親の死後孤児となった彼らが、旅客列車を生きる糧としたり、インチキ観光ガイドになったりと、自分自身の機知のみを頼りにたくましく生き続けるジャマールとサリーム。 悲惨な境遇とは裏腹に、生命力に溢れ、屈託無く笑って過ごす彼らがたまらなく魅力的だ。 そして、彼らと同じ境遇の子供達を食い物にする、醜い大人の存在。 アジアの影の部分にも切り 込んで見せる。

 後半では、青年になり違う道を歩み始め、対照的な生き方を選ぶ兄弟の姿、高層ビル群が林立し、西欧の夜間コールセンターと化している、IT先進国インドの今、そして、ジャマールの明晰さと、ラティカへの変わらぬ純愛が披露される。 そして、スリリングなクライマックス。

  想像してみよう。 例えば、舞台を別の国に設定しても、物語の幹「恵まれない生い立ちにもかかわらず、困難に打ち勝ち、成功を手にする主人公の生き様。」 は、形を変えて成立するかもしれない。 しかし、彼がクイズの答えを知り得た背景描写、そして何より、作品全体が醸し出す、めまいのするようなライヴ感、 万華鏡を覗くような不思議感は、ダイナミックに変容しているインドの「今」でなければ描けなかっただろう。 大団円のエンディングダンスシーンを含め、最後までインドの懐の深さを体感できる、満足度100%のオススメ作品だ。

  最後に一点、もし本作がオスカー受賞作でなかったら、日本で大きい注目を集めたか どうか、あるいは公開されたかどうかさえ、懐疑的な印象も持った。 決して華がある作品という訳ではない、出演者にビッグネームのひとつもない、SFXもない、し かし、映画の楽しみが凝縮されたこの作品の冠無しでのヒットがあり得たか・・。 GW最終日のシネコン、満席のシアターでの鑑賞後、少し考えを巡らせながらの家路だった。

2009/5/6 TOHOシネマズ海老名にて

2009年4月20日 (月)

「チェンジリング」

Changeling  チェンジリングという題名は「妖精のいたずらによって自分の子供が醜い子供に取り替えられる」というヨーロッパ伝承に基づくとのこと。

 1920年代 ロサンゼルスで起きた事件、実話をベースに、ここまで完成された素晴らしい作品を作り上げたイーストウッド監督と出演者、スタッフに立ち上がって拍手を送りましょう。

サスペンスを基調に、人権、猟奇殺人と法廷と刑罰、警察腐敗と告発など、数々の社会派の要素もちりばめながら、それらを腕のいいシェフが上質に料理し、最高の娯楽作品に仕上がっています。

  最愛の息子を誘拐され、悲嘆に暮れるクリスティ(アンジー)。 一方、その堕落ぶりを常々市民から批判を受けていたロス市警は、これを名誉回復の宣伝好機と捉え、 行方不明の子供を保護したとして、本物とは違う別の子供を彼女に押しつけてしまう。母として当然納得できない彼女は、警察批判を行う。 すると、犯罪被害 者として守られるべき存在であるにもかかわらす、今度は警察当局に疎まれ、当局の息の掛かった精神病院に強制収容されてしまう。 

 このあたりまでが前半の大筋ですが、あまりに可哀相なクリスティと、あまりに横暴なロス市警の態度、おぞましい精神病院の描写に観客のフラストレーションは最高値に達します。 

  続く後半、マルコヴィッチ扮する人権派の教会牧師、、良心的な刑事、市警の怠慢を糾弾する辣腕弁護士等々の登場、そして誘拐犯の正体が明らかになり、追い詰められることによって、事態は急速に好 転、締め付けられるような抑圧感は次第にリリースされて行きます。 エンターテインメントのツボと、観客の心理を熟知した見事な構成ではないでしょうか。 そして、穏やかで、ほんのりとした暖かさを感じる素晴らしいエンディング、もう最高の満腹感です。

  私にとっては、早くも今年1~2を争う満足作品となりました。 良い映画作品に共通ですが、このイーストウッド作品も、登場人物それぞれのキャスティング、人物設定に深みがあり、作品全体の締まりに繋がっていると思います。 PG-12指定されていて、ややショッキングなシーンもありますが、時代考証の観点 から、肯定的に捉えたいと思います。

 本作は「ゴードン・ノースコット事件」という当時の有名な連続殺人事件が重要な背景になっています。  そのことを事前に知っていたら、サスペンスとしての楽しみがやや削がれたかなという印象ですが、私自身は幸いにも、事件と作品との関わりについては知らなかったので十二分に楽しめました。 鑑賞前の予備知識を余り持たない主義がいい方に当たった形です。

  イーストウッド作品は、監督・主演作が間もなく公開を控えているので、益々期待が高まります。

2009年3月27日 (金)

「マンマ・ミーア!」

Mammamiajpg 世界10カ国で上演され、現在も人気を博し続けているミュージカルの映画化作品。

  ABBAのヒット曲22曲で構成される、ジュークボックス・ミュージカルあるいはカタログ・ミュージカルとも・・。 ミュージカルの舞台は、あまり得意ではないのですが、これは一度見てみたいと思っていました。 日本では「劇団四季」がロングラン公演を続けていましたが、芸能関係の友人の話では、同劇団は、多分全編日本語翻訳で上演するのだろうとのこと。 とすると、原曲のイメージが損われてしまうかな?などと勝手な思いこみで、二の足を踏んでいました。 だって、あのヒット曲達が「金・金・金」とか「ちょーだい・ ちょーだい・ちょーだい」みたいに歌われたらねぇ~。・・・なんて心配は無論必要ないでしょうけれど(笑)
 「四季」およびファンの皆様にケンカを売る気はございませんのでご容赦下さいm(_ _)m

 さて本題、なにしろ底抜けに明るく楽しい! 今なお愛され続ける'70s~'80sスーパースターの、色褪せない代表曲が全編にちりばめられ、エーゲ海に浮かぶ楽園のような島のロケーションとの相乗効果で、かつてオンタイムでABBAの曲を楽しんだ人でなくとも、 自然と踊り出したくなるのではないでしょうか。

 ヒロインのきらめくような若さとチャーミングさもさることながら 、ベッドで飛び跳ね、海に飛び込み、歌い踊る母親ドナ、メリル・ストリープが文句なく素敵です。 そしてドナを含む熟年おばさんトリオが、奔放なティーンエイジャーに戻ったようにエネルギッシュに歌い踊る姿には、一部“ドン引き”される方もいるとは思いますが、私は苦笑しながらも、不思議な元気をもらえました。 予告編で紹介されている、「ダンシング・クィーン」をバックに大勢の大人達が踊る前半のハイライトはもとより、黄昏の海と、教会へ続く岩場道のイルミネーションを背景にドナが歌う「ウィ ナー」、月夜に小舟でこぎ出す若い二人を見送る母と3人の父親。モノトーンの美しい画に流れる「I have a dream」しっとりとしたこれらのシーンもオススメです。

  新婦が結婚式前日に、まだ見ぬ父親候補3人を招いて、本当の父親を確かめようとする。 ストーリー設定のアイデアが抜群なのに、後半はハチャメチャな展開になってしまうのはいかがなものかなという気がしないではありませんが、ハッピーを絵に描いたようなこの作品は、細部(?)には敢えて眼をつぶり、上質の ミュージックビデオクリップを見るごとく楽しむのが、正しい鑑賞法なのかもしれません。

 ABBAのビヨルン&ベニーがカメオ出演しているシーンもありますので、一瞬しか見えなかったそのシーンをしっかり確認するためにも、もう一度見てみたいですね。

オマケ : 「ままみあ、ひあごーあげーん。まい、まい、はうあきゃれじすちゅー」この曲をライブで聴く際、オーディエンスが行うべき正しい振り付けは、ぐーに握った両手の人差し指を上に向け、交互に空を“ツンツン”します。 このとき気をつけなければいけないのは、決して中指を立て、手の甲を相手に向けて行ってはいけないということです。

MOVIX橋本にて

2009年2月25日 (水)

チェ 39歳別れの手紙

Che39_1_1b 革命家の生き様死に様、過酷なゲリラ戦に息が詰まりそうに・・

 世界中注視の元、国連議場での演説シーン、前作で描か れ、生涯で最も注目された時期から数年後、再び革命闘争に身を投じ、その生涯を閉じるまでの1年余りを描いた今作は、深く胸を打たれた作品でした。 今、 顧みてみると、前作はこのPart2を見せるためのプロローグであったと位置づけてもいいのかも知れません。

 一歩ひいた視線で撮られ、ド キュメンタリー色が濃く、突き放した印象の前作「28歳の革命」と打って変わり、ハンディカメラを駆使し、ゲバラ自身、あるいはゲリラ戦士の目線にいるよう な映像は、臨場感に満ち、あたかも自分が過酷なゲリラ戦を体感しているようです。 戦闘シーンも多く、彼の伝記的な側面だけでなく、普通のドラマとしても 十分に楽しめると思います。

 そして、今までほとんど知らずに過ごしてきた、革命家チェ・ゲバラという人物の生き様、死に様を、今初めて驚きと敬意を持って眼にしました。 劇中で語られる、彼の言葉のすべてが真実であり、一つ一つが重く迫ってきます。 

 キューバ革命後、政府の要職に就きながら、そのあまりの理想主義ゆえ、周囲から疎まれたというカリスマが、政治の舞台を捨て、妥協を許す余地のない究極の「仕事場」戦場に再び戻っていったのは、 必然だったのかもしれません。 che1.jpg

  史実により周知の通り、この闘争は失敗に終わり、ゲバラ自信も処刑されるのですが、組織の小さなほころびや、現政権と米国による軍事、情報両面からのゲリ ラ掃討作戦により、追い詰められ敗走する過程で、あるいは、捕らえられ、処刑を待つ僅かな時間の中で、皮肉にも彼のリーダーとしての資質が最も輝きを放っ ていたように受け止められました。 

圧倒的に不利な状況でも、最後まで革命の成功を信じていたのでしょうか?  古ぼけた小屋の中で銃口 を向けられ、絶命する瞬間の目線の先には、何を見ていたのでしょうか?  もしも今、彼が存命だったら、イデオロギー対立は既に過去のものとなり、グロー バリズムの名の下、市場経済最優先の結果躓き、混迷を深める今の世界をどう見るのでしょうか? 硬派な作品を見終わっての素直な感想です。

at MOVIX橋本

2009年2月14日 (土)

チェ 28歳の革命

Che28_1_1b 武装革命闘争のリアリティは十分伝わるのだが・・

没後40年以上経過してもなお、絶大な人気を誇る社会主義革命家チェ・ゲバラの若き日の闘争を描いた作品。

 ドキュメンタリーに徹したような作風には、賛否があると思います。

 映画作品に、ストレートで深い感動を求める観客には多分受けない作りではないでしょうか。有り体に言えば、盛り上がりが無いのです。
 カストロ運命的な出会いをし、武装闘争に身を投じる決意をしたとされるシーンも、あまりにも淡々と描かれ、高揚感のようなものは感じられません。

 当初は軍医として同行しながら、そのカリスマ性から次第に人心を掌握し、反乱軍ナンバー2に上り詰めたという人物像が、さほど魅力的に描かれているとも思えませんでしたが、その辺は作り手の意図なのでしょうか?

 決して嫌いなテイストの作品ではないのですが、リアリティとドラマ性をもう少しうまくブレンドしてもらったほうが、より楽しめたかもしれません。

 革命後は、指導者として要職につきながらその地位を離れ、その後再び革命闘争に身を投じたという後半生を描いた続作品に期待したいです。


at MOVIX橋本

2009年1月31日 (土)

「ワールド・オブ・ライズ」

World_lies_1_1b ◆ Body of Lies が原題。 中東を舞台にした対テロ情報戦がテーマの、9.11以降のアメリカにとって最大の政治的、軍事的脅威を背景にしたサスペンス調のドラマです。作品冒頭のクレジットに書かれたように、ドキュメンタリーとフィクションの中間に位置するような仕上がりになっています。

冷戦終結後 、その存在感が薄れていると言われてきたCIAが、新たな驚異「イスラム原理主義過激組織」の登場により、皮肉にもその活躍の場が再びクローズアップされ、このような作品が多く生まれることになっているわけですね。

ス トーリーの大筋展開に、特に目新しさは感じません。 かつてのスパイ映画や、最近の中東もの対イスラム過激派をテーマにした作品をご覧になっている方な ら、どこかで見たことある展開だなと感じられるでしょう。

  しかし、現地のエージェントが、敏腕ぶりを発揮し敵との情報戦に挑み、やがて陥る危機一髪の状況 を、米本国の指揮官と第三国ヨルダン情報局のトップが入り乱れて結末へと進んで行く過程は、とてもスリリングで楽しめました。 リドリー・スコット監督の 手腕なのでしょう、そのリアルさが抜群で、今現在、中東のどこかで起きている状況を疑似体験しているような気分にさせられました。 ホフマンが、ハイテク を駆使し冷徹な作戦を仕掛けながら、その過剰とも見える自信が、正反対の作戦を遂行するヨルダンのハニによって見事に覆される設定は、唯我独尊をひた走っ てきた現代アメリカの状況をイメージして作られたのかも知れません。

さて、作品広告のキャッチコピーにツッコミをひとつ。インターネットを筆頭に情報源と価値観が多様化する中、最後まで二元的な物言いを続けた前米国大統領じゃあるまいし、「アメリカの敵は世界の敵」のようなステレオタイプのコピーはアナクロ過ぎて、作品のリアリズムが泣きます。 キリスト教文化が染みこんだ西欧文明だけが救うべき世界ではありません。 世界中がイスラムと敵対している訳ではないぞ・・・と。

at MOVIX橋本

2009年1月 4日 (日)

「Across The Universe」

Across_the_universeプルーデンスへ。少しの友の助けがあれば螺旋階段を下れて、ルーシーも空を飛べる。黒い鳥も、セイウチも、もしも恋に落ちたなら、君の手を握りたいと願う・・。なぜなら、イチゴ畑は永遠で、愛こそがすべてだから。オー!ダーリン、なすがままに。

 予告編で見た、冒頭で主役がアカペラで歌う「Girl」にぞくぞくっとし、劇場に行こうと決めました。

  私はビートルズより少し遅れてきた、しらけたノンポリ世代なので、ヒッピー文化やポップカルチャー、ベトナム反戦などに端を発した政治的なムーヴメント等、若者がエネルギッシュで大きなうねりの中にいたこの時代に、ほのかなあこがれを持っていました。 まさにその時代を描いたこの映画には、弱いところに 直球を投げつけられた感じです。

 ミュージカル作品ですから、筋は至極単純な男女の恋愛物語です。 宣伝コピーにあるような「宇宙規模のラヴストーリー・・」ではありません。 しかし、ビートルズの数々の名曲たちに圧倒され、シンプルな展開にぴたっとはまる選曲のセンスと演出にはすっ かり脱帽しました。 そして、時代のうねりの前には男女の愛のカタチも影響を受け、変わってくるとのだという事実も目の当たりにし、真摯にぶつかり合う若い男女の姿の美しさに、じんとしました。

  ジャニスのような女性ヴォーカリスト、ジミヘンのようなギタリストなどキャスティングにニヤリとさせられたり、主人公の描くイラストから、ジョンのそれを 彷彿とさせられたり、嬉しいネタがたくさんちりばめられているのも楽しいですね。 ボノ、ジョー・コッカーにもしびれます。 そして圧巻は、「ストロベ リー・レコーヅ」屋上での演奏シーンです。「All you need is Love」には、涙が滲みました。 ミュージカル映画で泣けるなんて・・。

 素敵な音楽は人を元気にしたり温かい気持ちにさせる、元気になったり温かい気持ちになった人は他人に優しくできる、こんな小さな連鎖で世の中が少し元気に なったり優しくなったり、明るくなったりすれば、進むべき正しい路が見えず、閉塞感に満ちた21世紀初頭の今の世界も少しは良くなるかな?などと、既に二 人になってしまった巨匠達の遺産に触れながら、少し思ったのでした。

at MOVIX橋本

2008年11月 9日 (日)

迷子の警察音楽隊

Maigo 鮮やかな水色の制服を着た、浅黒く彫りの深い顔のアラブの男達が、所在なげに並んで迎えを待っている無言劇のような冒頭シーン(ポスターの絵柄も同じ)から、作品全体のトーンが伝わってきます。

 英国題The Band's Visit イスラエルの作品なのでヘブライ語の原題は読めません。

 異国の見知らぬ土地に、図らずも滞在することになった警察音楽隊の面々、その一夜の出来事を綴った90分あまりの短い作品ですが、ほのぼのとした雰囲気とそこはかとないユーモア、絶妙の間がおいしい、いい作品だと思いました。

ア ラブの盟主エジプトの警察官たちが、隣国でありながら建国以来決して良好とは言えない関係にあるイスラエルに赴く。両国の関係、距離感などを深くは知らな くとも、その微妙なシチュエーションが、彼らの心細げな描写の根底にあることは容易に想像がつきますが、そのあたりについての深読みが必要とは思いません でした。

 異国からの突然の来訪者と、それを受け入れる辺境の町の人々、それぞれが母国語でない言語でぎこちなくコミュニケーションをとり ながら、少しずつ心を通わせて行きますが、その過程の小さなエピソードの積み重ねによって登場人物像の輪郭も見えてきます。 このあたりの作りにも好感が持てます。

 隊長と食堂の女主人との交流、若く女たらしの隊員が初な若者に恋の手ほどきをするシーン、枯れかけていた初老の隊員が希望を取り戻すシーンなど見所が何点かあります。それぞれが自然で、妙な教訓じみていないところもオススメです。

 現代の大人の童話として、アラビアンナイトに書き足したいような作品です。


at MOVIX 橋本

2008年10月 2日 (木)

悲しみが乾くまで

Kanashimi_1_1b THINGS WE LOST IN THE FIRE 「私たちが炎の中で失ったもの」という名の作品、邦題はストーリー全体に流れるテーマを意味していますが、原題は作品内で語られる、とても感動 を呼ぶワンシーンから象徴的に選ばれていますので、その違いがちょっと複雑です。

  突然夫を失ったことで、それまでの幸せな生活が一変し、幼い子供と3人で悲しみに立ち向かってゆかねばならない美貌の未亡人。 死んだ夫の親友で、心なら ずも麻薬中毒患者となり、再生を志す元弁護士の男。 それぞれの複雑な思いを持ちながら始めた共同生活。 こんな境遇の二人が恋に落ちたりしたら、ただの チープなメロドラマと化してしまうところですが、さにあらず。 その課程で描かれる深い人間ドラマは、脚本、演出、出演者、きわめて上質です。

  登場人物は少なく、オードリー(ハル・ベリー)、ジェリー(ベニチオ・デル・トロ)の主役二人、その他、夫役のデヴィッド・ドゥカヴニーや子役達など10 人に満たないかもしれません。それ故に、それぞれの人物像やこころの動きなどを丹念に作り込み、決して大袈裟ではないドラマが、深い味わいの作品に仕上 がっていると思います。

 特にアカデミー俳優主役二人の役作りは見事です。  夫の死後、子供の前で気丈に振る舞いながらも時折見せる女の弱さ。、亡き夫の親友ながら敗北者であるジェリーとの微妙な関係に、お互いが抱く揺れ動く思 いとその変化、距離感の移り変わりなどを、とてもうまく表現しています。 また、一旦立ち直ったかに見えたジェリーが、再び麻薬に手を出し、禁断症状に苦 しむ様は、まさに鬼気迫る演技です。

 しかし、それらを本物に仕上げているのは、以前、「アフター・ウエディング」という作品で出会ったデンマーク人女性監督 スサンネ・ビア、今回がハリウッド初進出作品だそうですが、その手腕は見事です。 とても微妙で、難しい状況設定のドラマを巧みに映像化し、決して多くはないセ リフと、眼差しのクローズアップを多用した独特の作画は上品で、静かな感動に満ちています。 

 先への希望が感じられるエンディングのすがすがしさも相まって、大人の鑑賞に堪える良作だと思います。


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